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vol.443-2(2009年4月10日発行)
滝口 隆司 /毎日新聞運動部記者
ロッテが通達した「ジーンズ取材禁止令」

 最近、われわれスポーツ記者仲間で話題になっていることがある。「そんな格好では球場に入れてもらえないよ」「いや、スーツ姿で試合の取材に行く方が不自然でしょう」。プロ野球、ロッテ球団が担当記者に通達した球場内での服装のことだ。ジャージーやジーンズでの取材を禁止し、選手には敬語、丁寧語で取材するよう求める内容という。

 自分のことを言えば、平日に競技団体の役員を取材したり、企画取材で相手が背広を着ているような人と会う場合は、ネクタイを締めたスーツ姿で出勤する。しかし、試合や大会取材の場合は基本的にノーネクタイである。若い記者からは「日曜日のお父さんスタイル」などとからかわれたこともあるが、そんなことを気にしたことはない。

 選手に対する言葉も、基本的には敬語、丁寧語だが、高校野球などで若い選手を相手にした時に使うことは少ない。こちらの年齢(41歳)からしても、その方が自然だからだ。こんなことは人間関係の浅い深いによっても変わってくる。

 取材の服装も言葉遣いも、会社の中で決まりがあるわけでなく、自分が約20年間の取材活動の中で身につけてきたことである。記者それぞれに、それぞれのやり方がある。

 私はジャージーはもちろん、ジーンズで取材することも少ないが、ジーンズ姿で優秀な記事を書く人は何人も見てきた。さらにいえば、逆に取材相手も優秀な人であるほど、そんなことにこだわるそぶりは見せないように感じる。不格好でも記者の「流儀」を尊重してくれる。記者も取材対象に擦り寄るのではなく、厳しい目を向ける。台頭な立場で向き合う緊張感と信頼関係があった。

 それにしても、ロッテ球団の通達には「オレたちもなめられたものだ」と情けなく思う一方、取材相手との関係が崩れてきたことを痛切に感じる。「敬語を使え」とわざわざ命令してきたように、これからの取材が形式的になっていくことも恐れる。

 最近は選手にエージェントが付き、その選手が出場する大会の放映権を持つテレビ局のアナウンサーが、記者会見で代表質問するのが通例となっている。予定されたような質問が多い。こんなことが続いていて選手の本当の「生の声」は聞き出せない。ロッテのケースもこれと同質の問題だと思う。

 記者は裃(かみしも)着て取材に出向き、若い選手に「本日の投球はいかがだったでしょうか?」とでも聞くのだろうか。それで選手が「生の声」を発するわけがない。

 選手に「メディアトレーニング」を課している競技団体が増えている。取材の受け答えの練習だ。このようなトレーニングを受けている選手は見ればすぐに分かる。大体は会見の最初にファンやスポンサーらに対し「感謝の気持ち」を形式的に述べる。これを聞けば、形式的な取材対応を教えられてきたのだな、と思う。だが、そんな言葉を伝える記者はだれもいない。

 大事なのは、選手と取材者が人間として向き合い、本音をさらけ出すことだ。そこから人間味に満ちた記事が生まれる。競技者の「肉声」にこそ、大衆に伝える価値がある。

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