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vol.467-2(2009年11月10日発行)

滝口 隆司 /毎日新聞運動部記者

無責任きわまりない東京の再挑戦

 東京都の石原慎太郎知事が9日、2020年夏季五輪に立候補する考えを明らかにした。16年五輪招致の失敗について、何ら総括も反省もしていない時期の態度表明であるだけに、首をかしげざるを得ない。

 解せない点は他にもある。大きな疑問は、20年五輪の開催地が決まる13年の国際オリンピック委員会(IOC)総会の時点で、石原知事が、もう知事の座にはいないことだ。現在3期目だが、その任期は11年4月で切れる。しかも石原知事は4選不出馬の意向を以前から明らかにしているのだ。石原知事は「次の知事が決めるのでしょうが、手続きを踏んでおかないと20年開催地となる可能性がなくなる。その前に意志表示をしたほうがいい」と言っているという。都議会の意見も聞かず、しかも決まる時には責任を取る必要のない立場にいる。それで周囲が納得するわけはない。

 さらに不思議なのは、「広島との共催」を持ち出したことだ。知事は「共催」という言葉を使っているが、一部競技の広島開催を想定しているは明らかだ。「共催」という言葉で広島の出方を伺っているのだろう。

 しかし、だ。16年招致の時、民主党都議団が広島・長崎での一部開催を提案したところ、東京招致委員会はその案を一蹴したのではないか。「イベントならともかく、五輪憲章の規定で競技は開催できない」というのが、招致委の言い分だった。それが今になって「広島と共催」とは何だろう。今年の都議選で与党となった民主党を納得させるためか。「被爆国の日本が、象徴的な都市と一緒にやるのは、IOCの理念にかなっている」(石原知事)とはよくも言ったものだと思う。

 日本オリンピック委員会(JOC)は早くも東京の再挑戦を歓迎する意向を示している模様だ。広島が長崎との共催案を打ち出した時は、1都市開催を規定する五輪憲章を理由に難色を示したが、今回は竹田恒和会長が「東京にはノウハウがある」という見方を示し、「五輪招致戦略室」という組織を立ち上げる考えを明らかにした。JOCとしても16年の招致失敗については、まだ分析が終わっていない。次に立候補するかどうかも機関決定していない段階で、招致戦略室とはどういうことだろう。

 競技施設や開催能力、組織、財政どれをとっても国内では東京を超える都市はない。だが、その首都が国際舞台で負けたばかりなのだ。AP通信は東京の再立候補を早くも打電した。しかし、記事を読む限り、APの記者は、これを正式立候補表明とはとらえていないようだった。その記事の一部には、興味深いニュアンスがちりばめられている。

 「東京都の幹部によれば、石原知事が個人的な考えを表明しただけであり、もう一度立候補するかどうかは、都議会の判断に委ねられるだろう」

 多額に及ぶ招致費用の“ばらまき”が問題視されている。都議会やJOCが賢明な判断をしないと、東京は「五輪招致」という名の泥沼にはまりこんでいく。

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