スポーツネットワーク
topページへ
スポーツバンクへ
オリジナルコラムへ

vol.471-2(2009年12月18日発行)

滝口 隆司 /毎日新聞運動部記者

「逆風の中で」光は見えたか

 そろそろ1年を振り返る季節になってきた。去年の今ごろ、社内で「2009年のスポーツ界の課題は何か」と話し合った時、迷わず出てきたテーマは世界同時不況の影響がスポーツ界にどう表れるか、だった。あれから1年、何か見えてきたものはあるだろうか。

 私たちは年間企画のタイトルを「逆風の中で」と決め、年明けからいろんなテーマで取材に取りかかった。ホンダが撤退を決め、「ホンダショック」とまで呼ばれたF1の世界を皮切りに、Jリーグや欧米のサッカー界、バンクーバー五輪を控えた冬季競技、地方企業を母体とした企業スポーツ、アスリートを取り巻く就職の現実などを取り上げた。今は企画の第7部として野球やバスケットの独立リーグの現状を連載している。

 昨年末、この連載を年間企画と決めた時、「果たして来年末まで不況が続いているだろうか」といった声も出たが、その年末を迎えても、逆風はいっこうに変わらず、むしろ強さを増しているように思える。

 企業スポーツを見れば、アイスホッケーの西武、アメリカンフットボールのオンワードに続き、日産自動車が野球部(九州も含む)、卓球部、陸上部を休部とした。社会人野球のTDKはTDK千曲川を合併し、バレーボールのプレミアリーグでは、女子の武富士、男子のNECが解散。テニス日本リーグ男子のミキプルーンや女子の荏原、女子駅伝で活躍したOKIやマラソン選手を育てたトヨタ車体、アコムの陸上部も休廃部を表明。ラグビーのトップリーグで上位を争うヤマハ発動機は来季からプロ契約制度を廃止することを決めた。最近では女子ソフトボールで日本代表を輩出したレオパレス21が廃部を発表し、大半の選手が別のチームへ移ることになった。

 1年間の記事を調べただけでも、ざっとこれぐらいの休廃部の動きがあった。しかし、問題は企業スポーツだけにとどまらない。企業スポーツ崩壊後の受け皿として各地で設立された独立リーグでも、経営難の問題が次々と表面化した。今年創設された野球の関西独立リーグでは開幕わずか1カ月後にリーグ運営会社が各チームに分配金を支払えなくなり、その後もチームの脱退や新リーグの設立などゴタゴタ騒ぎはシーズン終了後まで続いた。四国・九州アイランドリーグやBCリーグでも財政難を訴えるチームがあり、バスケットのbjリーグでも高松や東京といったチームの経営が問題となった。

 そして、サッカー・JリーグではJ1大分が9億1600万円もの実質債務超過状態となり、リーグの「公式試合安定開催基金」から最大6億円の融資を受ける事態に発展した。J2東京ヴェルディも親会社、日本テレビの撤退によって窮地に追い込まれた。下位チームは観客動員が増えず、スポンサーも地元の中小企業頼みでは収入が伸びない。こうした状況にはJリーグの拡大政策のツケが回ってきたのではないか、という指摘もある。

 再びバブル崩壊期に戻ったような今年だった。来年以降も不況の逆風はしばらく収まらないだろう。競技者の環境を支える土台がまたも崩れ始めているのに、競技団体などは何ら対策を打てていないのが現状ではないか。ただ、かつてと少し違うのは、「社会との結びつき」を強調するチームが増えてきたことだ。子ども向けのスポーツ教室をはじめ、各種のイベントを開いて地域社会との関係を持とうとしている。「勝つことがチームの生き残る道だ」といった声を聞くことは少なくなった。それは、スポーツが企業の宣伝から社会貢献へと徐々に存在価値を変えつつあるからだろう。地道な活動から今のスポーツ界を立て直す、という意識が芽生えつつあるのは、暗闇の中に見えるわずかな光のように思える。

筆者プロフィール
滝口氏バックナンバー
SAバックナンバーリスト
          
無料購読お申し込み

advantage
adavan登録はこちら
メール配信先の変更
(登録アドレスを明記)
ご意見・ご要望

Copyright (C) 2004 Sports Design Institute All Right Reserved
本サイトに掲載の記事・写真・イラストレーションの無断転載を禁じます。  →ご利用条件