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vol.542-1(2011年11月8日発行)
賀茂 美則 /スポーツライター(ルイジアナ発)
錦織圭、一気に頂点へ?

 2011年11月5日、日本のプロテニス界に歴史が刻まれた。スイスインドアオープンの準決勝で、錦織圭が世界1位のノバク・ジョコビッチに快勝したのは、日本より海外で大ニュースとなった。

 それまで王座に君臨していたラファエル・ナダルに代わり、ジョコビッチは2011年のプロテニス界で圧倒的な強さを誇るまさに「キング」である。今年の4大大会のうち3つを制し、錦織と対戦するまでの今年の戦績はなんと67勝3敗。そのうち2敗は途中棄権によるもので、最後まで戦って負けた相手はナダルの前の王者、「史上最高のテニス選手」とも言われるロジャー・フェデラーだけなのである。

 1セット目はジョコビッチに圧倒され2-6で失ったが、スロースターターの錦織は徐々に修正を加え、互角の勝負に持ち込んだ。2セット目、4-5からあと2ポイントで敗戦というところまで追い込まれたが、ここを持ち前の敏捷さとスーパープレイでしのぎ、タイブレークで2セット目を取ると、3セット目は怪我からの復帰直後とは言え、世界王者ジョコビッチを6-0で圧倒した。2003年にジョコビッチがプロ選手になって以降、勝負がかかった最終セットを0-6で落としたのはこれが初めてである。

 翌日の決勝では、過去5回の大会のうち4回優勝しているフェデラーの最盛期を思わせるテニスに1-6、3-6で完敗したものの、非凡なセンスと意外性に溢れたテニスを披露した今大会は、表彰式でフェデラーが「今日、スターが生まれた」と讃えたように、世界中に「錦織圭、ここにあり」というメッセージを発信したトーナメントとなった。

 錦織の快進撃は決してまぐれではない。9月末のマレーシアオープンで世界11位(対戦当時、以下同様)のアルマグロに勝ち、10月の上海マスターズではツォンガ(8位)、ドルゴポロフ(18位)を破って準決勝進出。今回の1回戦でもベルディヒ(7位)に勝利しているのだ。2011年を通しても、20位以内の選手との対戦成績はなんと7勝6敗。年初に98位だったランキングも24位まで上昇し、今年の「もっとも進境著しい選手」候補4人の一角にノミネートされている。

 また、日本のメディアでは報じられていないが、24位というランキングに到達した錦織が弱冠21歳であるということも驚きである。錦織より若い選手は錦織より上のランキングには1人もいないのだ。下を見ると29位に1才若いカナダのラオニッチ、41位に19才のオーストラリアのトミッチがいるが、どちらも今年の「新人賞」候補である。錦織は世界中の有望な若手プレーヤーの先陣を切っている、つまり、怪我さえしなければ、長い選手生命も期待できるということだ。

 世界のトップクラスを目指すにあたって、これまでの日本人選手がどうしても苦手としていたものがある。それは「英語」である。海外を転戦するには英語が必要だし、大きな試合ともなれば英語でのインタビューもある。それ以上に英語が必要となるのは試合中、審判をも巻き込んだ駆け引きである。しかしながら、13才でアメリカのフロリダ州に「テニス留学」した錦織はこの点全く心配がない。今大会も、決勝で破れた後、冗談を交えて英語で見事なスピーチをこなしていた。また、ジョコビッチと2人が中心となって3月には震災の被災者支援のチャリティサッカー試合を主催したり、今回の準決勝の直前にはフェデラーと練習をしていた。こういった何気ないことにも言語の点で「臆すことがない」のはこれまでの日本人選手にはなかった大きなアドバンテージである。

 ここ2ヶ月の躍進で、ナダルが3年前に言った「世界のトップ10、いやトップ5を狙える逸材だ」という「予言」がますます現実味を帯びてきた。錦織圭が日本の男子テニス史上最高の選手であることは間違いない。可能性は無限である。4大大会を制することも今や決して夢物語ではない。錦織圭は今後、日本のテニスファンにどんな「夢」を見せてくれるだろうか。

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