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vol.524-1(2011年3月28日発行)

佐藤次郎 /スポーツライター

常識と人情さえあれば・・・

 「これ以上、プロ野球が嫌われていくのを見たくない」という声がスポーツ紙に紹介されていた。確かにこの春、プロ野球のイメージはずいぶん下落したように思う。なんでまた、セ・リーグはこれほど世間の思いを逆なでにするようなことをしてしまったのだろうか。

 ごく当たり前の常識と人情。それさえわきまえていれば、こんな状況にはならなかったはずだ。パ・リーグが開幕を4月12日に延期すると決めた後も、セは予定通りの3月25日開幕を押し通そうとし、その姿勢が厳しく批判されるとたった4日間の延期を打ち出して、今度は文科省のダメ出しを食い、結局はパと同じく4月12日開幕を決めた。世間から注目を集める問題の対応としては、なんともお粗末。それより何より、こんな対応をすれば批判を招き、結果的に追い詰められてしまうのは、ちょっと考えればわかりそうなものではないか。当たり前の常識さえわきまえていないというゆえんである。

 未曾有の大震災とはいえ、世の中の活動をすべて止めるわけにはいかない。プロ野球も当然開幕を迎える。ただ、まだ大災害が実質的に進行中の時点で、早々と予定通りの開幕を決めてどうするのか。深刻な電力不足が続いている中で、どうしてナイトゲームを強行しようとしたのか。常識的に考えれば、また、苦しみと悲しみに耐えている多くの被災者の心を思いやる人情さえあれば、まずそんなことはしない。さらに、そんな姿勢を見せれば、イメージ悪化のマイナスが延期による損失を大きく上回ってしまうことぐらい、すぐに判断できる。つまり、いったんは予定通りの開幕やナイトゲーム開催を押し通そうとした者たち、それに押し切られて追随した者たちのどちらにも、当たり前の常識や人情が、また通常の経営感覚や危機管理の意識がなかったということだ。

 関係者たちの言葉も世間のひんしゅくを買った。「なんでもかんでも自粛すればいいのか」「開幕を何日にしろということなんか、お上の決めることか」「交流戦はもういらないと言うなら、それはそれなりの考え方があるだろう」―。説得力もなければ思いやりもない。自分のやりたいことを力でごり押ししようとするだけ。そんなことを言えば、批判や反感がいっそう強まっていくことさえわからなかったのだろうか。

 日本で最も愛されているスポーツはいまなお野球、それもプロ野球だと思う。それほど大きな存在なのである。なのに、それをトップで運営している者たちが、誰もが納得できる正論を言わなかった、あるいは言えなかったというのは実に悲しい。

 今回、ファンの心に響くことを語ったのは選手たちだけだった。「正直、野球どころじゃないと思う」「いま野球で励まそうというのは思い上がりだ」「被災者を第一に考えることが大事」―。まったくその通り、これこそ正論である。大スターであっても、ファンと常に接しているだけ、世の中の思いには敏感なのだろう。それに比して、各球団やコミッショナー事務局の幹部らはなんとも鈍感と言うしかない。

 楽天・星野監督は「いまは有事。みんな平和ぼけしている」と一喝したうえで、「セの監督も野球界のためにもっと言わなきゃいかん」と、沈黙するばかりのセ・リーグ監督たちに積極的な発言を促していた。これもその通りだ。プロ野球は経営者だけのものではない。現場でプレーする野球人たちと、見守るファンのものでもある。監督たるもの、球界を取り巻く重大問題については責任をもってしっかり発言すべきだろう。野球界の顔でもある監督には、なにごとについてもファンに向かって語る義務がある。彼らはそれがわかっていないようだ。

 言葉の力は大きい。問題が大きければ大きいほど、心に響く言葉、さまざまな疑問や懸念に誠実にこたえる真摯な言葉が必要になる。今回の問題で、そうした言葉が経営トップたちにきわめて少なかったのは、なんとも残念なことだった。

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