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vol.529-1(2011年5月16日発行)

滝口 隆司 /毎日新聞運動部記者

「球音を取り戻す会」の支援を見習いたい

 あるスポーツ関係者から「義援金を集めていて、スポーツの復興支援に役立てたい。ところが、どこに持っていけばいいのか分からない」という相談を持ちかけられた。東日本大震災の復興支援のための義援金は、主に日本赤十字社が窓口となっているケースが多い。11日現在、日本赤十字社に寄せられたのは約1820億円にのぼる。しかし、支援先は日本赤十字社と被災県などで構成される割合決定委員会が配分を決めるので、寄付をした人が「スポーツの復興支援に」と使い道を指定できるわけではない。

 そんな折、「被災地に球音を取り戻す会」という組織が出来たことを知った。代表を務めるのは、06年夏の甲子園で早稲田実業と決勝再試合の死闘を演じた駒大苫小牧高の元監督、香田誉士史さん(現鶴見大コーチ)だ。雑誌「報知高校野球」の協力も得ながら全国から野球用具を集めて被災地の高校に送る一方、募金も開始した。有志による支援活動で、インターネットでは次のように被災地の状況を記している。

 「活動を再開できない高校の野球部も多く、春季宮城、福島両県大会および東北地区大会は中止を余儀なくされました。各学校、部員の被災状況は様々ですが、練習を再開したくても用具や練習着などがなく、活動費は支給されず、部費など集められる状況ではありません」

 同会では、被災地の学校に問い合わせて不足している野球用具の情報を集めている。要望が来たのは、岩手では大槌、高田、宮古工、山田、宮城では石巻工、石巻商、宮城水産、福島ではいわき海星、東日本国際大学昌平の各校からだという。そこから挙がってきた内容は具体的だ。ボールやグラブ、バットはもちろん、捕手用具やヘルメット、練習着、スパイク、ベルト・・・。そうした情報に応じて用具を全国から集めて現地に送る。

 この活動が教えてくれるのは、直接的支援のあり方だ。これほどの大規模災害の中で、行政が高校生の部活動の詳細情報まで集めるのは困難に違いない。日本赤十字社の支部でもとうてい無理だろう。本当に困っている人たちの生の声を集めるには、やはり関係者が直接的に動くしかない。

 別の競技団体関係者からは「支援物資を送りたいが、窓口が分からない。結局、被災地の自治体に一つ一つ電話をかけて必要な物品を聞いている」という話も聞いた。だが、もっと効果的に支援を実施していくのなら、「球音を取り戻す会」のように、地味ではあるが、現場のつながりを少しずつ生かしていってはどうか。

 かつて遠征で練習試合をしたことがある。一緒に合同合宿をしたことがある。監督同士が大学の先輩後輩にあたる。そんな小さな縁がこういう時にこそ役に立つ。中央競技団体も、各県協会・連盟やその支部などを通じて実態を把握し、どんな支援が出来るのかを具体的に進めるべきだ。きめ細やかな心遣いが求められている。

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