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vol.536-1(2011年8月11日発行)

滝口 隆司 /毎日新聞運動部記者

地デジ化でスポーツ中継の「再生」を

 7月からテレビの地デジ化が被災地を除いて実施され、テレビの見方が少しずつ変わってきたような気がする。スポーツに関していうなら、スポーツ中継が「再生」するのではないか、という期待を持っている。

 夏の甲子園は中盤戦に差し掛かっているが、関東に住む高校野球ファンにとっての変化は、大阪・朝日放送の中継をBS朝日で見られるようになったことだろう。

 NHKとの違いといえば、解説者の顔ぶれである。NHKでは主に社会人や大学の監督経験者が解説を務めているが、BS朝日の解説者は、地方大会で敗れた強豪校の現役監督や過去に甲子園で指揮を振るった元名監督たち。NHKの解説は抑制が利いて安心して聞いていられる。一方、BS朝日の場合は甲子園の現場を知るだけに、解説にも高校生を指導する生の息づかいが感じられる。関西のファンには当たり前の光景だが、関東で見ると斬新な感じがする。

 あるテレビ局のプロデューサーから聞いた話だが、5月の国内男子ゴルフ、とおとうみ浜松オープンがBS−TBSで放送された時、地上波では信じられないような高視聴率が出たそうだ。この大会では石川遼が最終日に小林正則とのプレーオフを演じた。従来の地上波では、放送時間の関係でゴルフ中継の大半が編集済みの録画放送だ。試合がプレーオフにもつれ込んだとしても、放送時間の枠に収まるようきっちりと編集するのだという。

 ところが、BS放送は慢性的なコンテンツ不足に頭を悩ませている。その日のゴルフも放送時間の枠など、ほとんど気にせず完全生中継。そうしたところ、日曜日の昼間としては、驚くような視聴率が出たというのだ。

 高校野球とゴルフの例が暗示するのは、現場の臨場感を視聴者にいかに伝えられるか、という問題だ。最近の地上波における世界選手権など国際大会の中継は、数分〜数十分遅れの放送が多い。どんなハプニングが起きるかも知れない海外での大会だ。編集する時間を前もって確保しておけば、多少のトラブルがあっても対応出来、スポンサーのCMも確実に確保できる。

 しかし、それはテレビ局側の論理といっていい。ファンはインターネットの速報で結果を知ることが出来るのだから、それからテレビを見ても、興醒めというものだ。

 地上波のプロ野球中継はめっきり減ったが、最近はNHKのBSだけでなく、民放のBSでもよく放送されるようになってきた。地上波では試合終盤の最も緊迫した場面で放送終了という例が少なくなかった。しかし、BSでは試合終了まできっちり観戦できる。

 CS放送のスカイパーフェクTV!に入会し、特別に料金を支払ってスポーツ中継を堪能している人はかなり熱心なスポーツファンだろう。だが、一般の人々へのスポーツの普及、大衆化を意識するなら、地デジ化によるBS放送を最大限利用しない手はない。

 欧州で有料放送が急速に広まった時、大衆の間からは「一部の人しかスポーツを見られないのはおかしい」という「ユニバーサルアクセス権」の議論が持ち上がり、注目度の高い人気スポーツの試合は一般の人が無料で見られる法律の整備が各国で進められた。日本でそのような議論はないが、今回の地デジ化をきっかけに、テレビ局とスポーツ関係者が単なる商業ベースでの利益だけを追求せず、テレビによるスポーツの大衆化の価値を再考してほしいものだ。

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