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vol.539-2(2011年9月16日発行)

滝口 隆司 /毎日新聞運動部記者

戦うことの根本を忘れた日本ラグビー

 日本のラグビーは何か大事なことを忘れてはいないだろうか? ワールドカップ(W杯)の第2戦、ニュージーランド戦の先発メンバーを見て、そんなことを思った。

 日本は初戦のフランス戦から10人ものメンバーを入れ替え、控え組中心の布陣を組んだ。目標は今大会で2勝することであり、実力的に勝つ可能性があるのは トンガ、カナダの第3、4戦と見ている。だから、世界ランク1位のオールブラックス(NZ代表)を相手にベストメンバーを出してケガでもすれば、次の試合に影響すると考えたのだ。世界最強チームとの対戦を控えての敵前逃亡、自ら選んだ不戦敗と表現してもいい。

 今回の日本代表の3分の1が外国出身選手であることに違和感を抱くファンも少なくない。ラグビーの世界では五輪のような国籍主義を採用せず、在籍年数などの条件を満たせば代表になれる。そのようなルールのもとで、各国が外国の選手も代表に選んでいる。だが、そうはいっても、これだけ外国出身者をかき集めることはあまりに度を過ぎている。

 つまり、今回のラグビー日本代表はやたらと「結果」を気にしている。2019年にW杯の日本開催が決まった。だからこそ、W杯で好成績を残したい、と関係者が必死になるのは分かる。目標とする2勝を達成して日本ラグビーの評価を上げたい気持ちも理解できる。国内のラグビー人気を盛り上げたいのも当然だ。しかし、実は結果よりも大切なことを見失っているのではないか。それは 「戦う」ことだ。

 日本はNZと過去3試合しかしていない。結果は▽1987年 0−74(花園)▽同 4−106(国立)▽1995年 17−145(南アフリカ)=カッコ内は場所。いずれも大敗であり、特に95年W杯南ア大会の一戦は歴史的スコアとして語り継がれている。だが、それも真っ向からぶつかって敗れた結果なのだ。あれから16年。日本のラグビーがどれだけ進歩を遂げたのか、それを試す、またとない機会だった。

 日本が先発メンバーを発表した翌日、NZは当初予定していたメンバーから主将とフルバックの2人を外した。日本が主力を出さないのなら、選手を休ませようと考えたのかもしれない。そのため、W杯という最高峰の舞台にもかかわらず、両チームがベストメンバーで戦わない試合になってしまった。これでは、日本ラグビーと世界トップレベルとの真の差がどれだけあるのか、さっぱり分からない。

 このコラムが配信された後に試合が始まることになるだろう。だが、結果がどうであれ、日本代表の方針には賛同しかねる。こざかしい「戦略」を立ててトンガ、カナダに快勝する日本より、愚直にオールブラックスにぶつかっていくジャパンの姿を見たかった。ラグビーは、目の前の楕円球を獲得するために勇気を奮い立たせ、闘争本能をむき出しにして戦うスポーツだ。大敗しても、ケガをしても、そこにラグビーの本質があり、美しさがある。

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