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vol.578-1(2013年 6月19日発行)
岡 邦行 /ルポライター

原発禍!「フクシマ」ルポ―14

 南相馬市の4面ある北新田運動場は「少年野球のメッカ」といわれ、毎年3月末の「福島クボタ杯」でシーズンインを迎えると「南相馬市教育長杯」「長嶋旗争奪戦」などを開催。毎週日曜日には「南相馬市リーグ戦」やジュニア育成と指導者育成を兼ねた野球教室「選抜練習会」が行われた。南相馬は福島県の中でも、もっとも少年野球が盛んな地として知られていた。
 しかし、当然のごとく原発事故でグラウンドは放射性物質で汚染され、3・11後は瓦礫置き場となって使用禁止。この6月末までに除染作業を終え、7月からは使用することができるという。が、前号でも記述したように、いかに除染したといっても放射線量は下がらない。年間積算放射線量1ミリシーベルトを目標に国や県、南相馬市は毎時0・23マイクロシーベルト以下にするための除染作業を実施しているという。が、私が除染されたという、グラウンドなどのスポーツ施設周辺を計測した結果は、低いところでも基準値を超える0・3である。
 「そうなんだよねえ。たしかに除染しても線量は下がらないと聞いているし。
この夏から秋にかけては『杉並区・取手市・南相馬市交流自治体少年野球大会』や、岩手・宮城・東京のチームが出場する『野馬追旗杯』を開催する予定なんだけど、きちんと除染をやってもらわないと他県のチームを招待できないんだよねえ・・・」
 そういって、知人の少年野球関係者は不安顔を見せた。

 私が初めて故郷・南相馬市の少年野球に注目したのは、26年前の87(昭和62)年夏。元巨人軍監督の解説者・堀内恒夫さんを取材したときだ。取材後の雑談で、次のような会話を交わしたのがきっかけだった。
 「ところで、岡さんはどこの出身なの?」
 「福島県の原町市(当時、2006年=平成16年に小高町と鹿島町と合併して南相馬市となる)というとこですが、知らないでしょうね」
 「何いってんの。息子が入っている杉並区の少年野球チームの監督のHさんは、原町市出身でね。毎年夏になると行って、地元のチームと交流戦をやる。この夏は俺も行くけど、観にこない?」
 「そうですか。じゃあ、行きます」
 2週間後のお盆休み。帰郷した私は北新田運動場を訪ねた。堀内さんの息子さんが在籍する杉並区のチームと、地元チームの交流戦を観戦した。試合後、地元父母たちの「是非、フォークボールが見たいです」という要望で堀内さんはマウンドに立ち、まずはボールの握り方を説明。フォークボールを投げた。まさに投球されたボールはストンと落ち、そのたびに「おお!」の歓声が起こった・・・。
 堀内さんは、南相馬市の野球普及に貢献しているのは間違いない。90(平成2)年秋には長嶋茂雄さんと土井正三さんとともに南相馬市を訪ね、少年野球教室を開いている。
 「もちろん、長嶋さんや堀内さんたちがきたときは謝礼のお金を用意していたんですが、長嶋さんが『ギャラはいらないから、少年野球に役立てて欲しい』といってくれた。そこで優勝旗をつくり『長嶋旗争奪戦』を始めたんだけど、その長嶋旗を2年間も持ちだすことはできない。南相馬もプロ野球といったら巨人だし、長嶋さんだからね。大会のたびに盛り上がっていたけど、原発事故のためにできない。天下の長嶋さんも放射能には勝てないからなあ・・・」
 南相馬市少年野球連盟事務局を切り盛りする、Tさんは面映ゆい顔でいった。

 また毎年夏休みに杉並区の少年野球チームと交流戦をしていたことが契機となり、杉並区と南相馬市は「災害時相互援助協定」を結んでいる。そのため3・11の際に杉並区は、区民から実に5億7923万544円(3月末現在)の義援金を募る一方、多くのボランティアを派遣してくれた。
 南相馬市役所によると、以上の多額の義援金は「南相馬市みらい夢基金」へ積立、次世代育成や地域コミュニティ再生事業などの資金として計画的に活用。今年度は東日本大震災遺児等支援事業、学校図書館支援事業、杉並文庫整備事業、南相馬市・杉並区スポーツ交流事業補助金、子どもの運動環境向上事業補助金に約1億9000万円を活用する予定だという。

 この6月末、私は念願だった『南相馬少年野球団―フクシマ3.11から2年間の記録』(ビジネス社)を出版する。
 5月末、取材してきた野球少年たちに会った。昨年12月の時点では身長139センチ・体重37キロながら、シュアなバッティングがウリの中学生になったS君も元気にプレーしていた。
 声をかけた。
 「どうだ、身長は高くなったか?」
 「はい。4センチ伸びました。体重も増えました」
 そういって、マスクとレガースを身に付けたS君はブルペンに走って行った。

 南相馬少年野球団の指導者と選手、その保護者たちの合言葉は「野球の灯は消さないぞ!」である―。

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