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vol.588-1(2013年10月7日発行)
岡 邦行 /ルポライター

原発禍!「フクシマ」ルポ―22

  ウソついたら針1000本飲ませるぞ!
 子どもの頃、よく大人にいわれたものだ。しかし、今や著名人や政治家たちまでも平気でウソをつく時代になってしまった・・・。
 「安倍(首相)のウソは見え見えだったけど、“おもてなし”で有名になった滝川(クリステル)もウソをついていたの知ってた?」
 ある知人は私に、そういった。その理由は? こう説明する。
 「あのね、滝川は『もし皆さまが(東京で)何かをなくしたとしましょう。それはほとんど必ず皆さんのお手元に戻ります。現金でさえも同じです。去年は3000万ドル(約30億円)以上の現金が東京の警察に届けられました・・・』と、そういって東京がいかに安全な都市であるかをアピールしていた。しかし、これは真っ赤なウソだね。
 まあ、ネットで調べればわかるけど、警視庁が昨年度受理した現金の遺失物届は約84億円でね。そのうち受理した現金の拾得届は、たしかに滝川がいったように約30億円だった。しかし、ここに滝川のプレゼンでのウソがある。つまり、残る約54億円は戻ってきていないということだからね。まあ、外国と比較したら日本の場合は戻ってくる確立は高いかもしれないけど、滝川のウソは否定できないね。よくぞフランス語でウソをついてくれたという感じだよ…」
 夏が過ぎ、10月に入っても福島第1原発の汚染水漏れはコントロールもブロックもされず、今も漏れ続けている。もちろん、安倍首相の世界に向けたプレゼンのウソは、日を追うごとにバレバレだ。

 それにしても日本のお偉方は、原発事故をどう考えているのか。あまりにも放射能に対する意識が低すぎるのだ。未だに放射能に脅えて避難する14万6000人の福島の人たちにとっては、信じられない思いだろう。
 たとえば、Jリーグ発足と同時に百年構想を打ちだし、スポーツ文化の確立を標榜する日本サッカー協会。9月12日に田島幸三副会長は「1日でも早く元の状態に戻って欲しい」と言いつつ「7年後の東京五輪では、福島のJヴィレッジが出場国のキャンプ地の中心になる」と発言していた。ひと言で呆れてしまう。
 3・11後、原発から20キロ圏内にあるJヴィレッジは、自衛隊員や原発作業員の放射性物質を除染する場所となり、サッカー場などの施設はすべて放射性物質で汚染されている。たとえ除染しても肝心の汚染土壌などを納める仮置き場を確保するのは困難であり、これが除染作業の最大のネックとなっているのだ。
 いうまでもなくJヴィレッジは、双葉郡の楢葉町と広野町にまたぐように位置し、20キロ圏内にある楢葉町の人たちはほぼ全員が避難。20キロ圏外の人口5000余人の広野町でさえも、未だに4000余人が避難している状態なのだ。
 たとえ7年後に開催予定の東京オリンピックとはいえ、原発事故の収束のめどはまったく立っていない。そのような原発から20キロ圏内にあるJヴィレッジで、日本サッカー協会は“おもてなし”をするというのか。加えて近くには東電の広野火力発電所があり、不気味な巨大煙突からは白い煙が吹き出ている・・・。

 あの9・7プレゼンを思いだすだけでも苛立ってくる。よって話題を変えたい。
 この夏、私は日本スポーツ少年団が実施している「日独スポーツ少年団同時交流」を取材することができた。ドイツからは約120人の団員が来日し、全国各地の日本スポーツ少年団員たちと交流を持ったが、私はとくに山形・宮城・福島を訪ねたドイツ団の7人が気になり、福島入りした際に2日間だけ同行した。何故ならドイツ団の福島訪問に当たり、ドイツスポーツユーゲント事務局に長らく勤務していた、高橋範子さん(第10号参照)から相談を受けていたからだ。
 今夏は福島県郡山市を訪問するドイツ団も予定していますが、フクシマの放射能などについての状況を教えて下さい―。
 以上のような内容の高橋さんからのメールに対し、私はおおよそ次のように返信していた。
 郡山市の場合は、原発から50キロも離れていようとも、場所によっては原発最前線の町といわれる、故郷・南相馬市と変わらぬ放射線量が計測されています。福島市も同じですが、けして低いとはいえません。できれば来ないほうがよいと思う。ただし、これはあくまでも私見ですが、2・3日の滞在なら大丈夫だと思いますが・・・。
 以上のような経緯があり、少なからず責任を感じていたため、郡山入りした7人に同行したのだ。結果を先にいえば、私は胸を撫で下ろした。7人のドイツ団のグループリーダーのマティアス・アンドレーゼンさんが、郡山市のホスト・ファミリーやスポーツ少年団関係者が主催した“さよならパーティ”のときだった。次のような挨拶をしたからだ。
 「私たちは今回の滞在で、一瞬も『退屈だなあ』と思ったことはありません。郡山で元気をいただいて幸せです。この4日間、スタッフは付ききりで付き合ってくれ、そこから友情が生まれました。
 そして、私たちがフクシマに滞在したことは、もうひとつの意味を持っています。ドイツでも原発事故についてはたびたび報道されていますが、たくさんの人が住み、復興を目指している皆さんの姿はなかなか伝わってきません。しかし、私たちは4日間の滞在で知ることができました。それが大きな収穫であったと思います。私たちは帰国したら、滞在したフクシマのことを伝えたいと思います・・・」
 ちなみにドイツスポーツユーゲント事務局は、団員のフクシマ訪問に関し、かなりの情報を集めたという。外務省からも話を聞き、4・5日間の滞在なら問題はなく、本人の考え次第ということであった。その結果、フクシマ訪問を希望していた2人がキャンセルしたものの、7人が訪問することになったのだ。
 日本スポーツ少年団が発足して、今年で51年目。少子化のために会員数は伸び悩み、現在は100万人を切っているが、約3万5000余のクラブに所属。毎年、夏休み期間中は“みんなのスポーツ”の先進国のドイツと同時交流を開催している。

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