スポーツネットワーク
topページへ
スポーツバンクへ
オリジナルコラムへ
vol.590-1(2013年11月15日発行)
岡 邦行 /ルポライター

原発禍!「フクシマ」ルポ―24

 11月2日朝。東北新幹線で福島入りした私は、いつものように福島駅構内の売店で福島民報と福島民友を買い求めたのだが、思わず歓喜の声を上げた。なんと民報の書評欄に共同配信で、9月末に出版した『大島鎌吉の東京オリンピック』(東海教育研究所刊)が大きく取り上げられていたからだ。発売後に日経や産経などで紹介されてはいるが、やはり故郷の新聞に掲載されるのは嬉しい。老父母も喜んでいた。ちなみに民報と民友の2社は県外に避難している福島県民のため、未だに避難地の各自治体の図書館に毎日のように郵送しているという。
 ともあれ、今回の私は福島市に隣接する伊達市霊山町の下小国地区に2日間滞在。NPO法人「再生可能エネルギー推進協会(REPA)」のスタッフに同行することになっていた。3・11以来、REPAは下小国地区で「霊山プロジェクト」――“水田除染プロジェクト”と“メタン発酵プロジェクト”による復興支援活動を展開し、放射性物質で汚染された雑草や野菜などを発酵させ、被災地における新たなエネルギーである、メタンガス再生に成功させている。それが高く評価され、この11月からは復興庁の「新しい東北」先導モデル事業にも取り組んでいる。
 50年前の中学時代に私は、秋の遠足で紅葉の霊山に登ったことがある。その風景は変わらないが、この時季は民家の軒先には名産の干し柿がぶら下がっていた。春ともなれば山菜もふんだんに採れた。しかし、3・11後は放射能に汚染されたため、その光景は見られない。たわわに実る柿も、熟して落ちるのを待つだけだ。1キロ当り放射線量は30ベクレルで基準値(100ベクレル)以下だが、干し柿にすると重量が減り、逆に放射性物質は100ベクレルを超えてしまい、出荷することができないのだ。
 干し柿が好物だという、REPAのスタッフが溜息混じりに言った。
 「6個分の柿からは、お米1升分が炊けるメタンガスが取れる。でも、柿は食べられるために実るんですからね。柿にしてみれば複雑な思いでしょう・・・」
 3・11後、下小国地区の住民は「放射能からきれいな小国を取り戻す会」を結成。いち早く“伊達市小国地区放射線量マップ”を作成し、住民に避難を呼びかける一方、除染作業に取り組んできた。しかし、年間被曝量1ミリシーベルト以下の基準値である、毎時0・23マイクロシーベルト以下の地域は少なく、2日間滞在しても若いお母さんや子どもたちの姿は見かけなかった。
 「いくら除染しても仮置き場を確保することはなかなかできなかった。しかし、最近はあっちこっちの農家が仮置き場にして欲しいと言ってる。なんのことはねえ、初めは厭がっていたが、1反(300坪)当り年18万円の補償金が出るようになったからだ。田畑を持っていても米も野菜も作れねえしな。それだったら補償金をもらったほうがいいということだ。人間なんて現金なもんだよ・・・」
 苦笑しつつ、世話役のOさんは言った。

 伊達市霊山町での取材を終えた後、私はその足で南相馬市に行き、久しぶりに母校・原町高校に出向いた。図書室の一角には卒業生が上梓した書籍が並ぶ文庫があり、この7月に出版した『南相馬少年野球団』と、今回の『大島鎌吉の東京オリンピック』を持参した。
 「出版されたことは存じていたんですが、予算がないために購入することができなくて困っていたんです。ありがとうございます」
 そう言って、司書は恐縮した顔で頭を下げてくれた。
 野球部のグラウンドでは紅白戦が行われていた。その隣ではサッカー部が練習をしている。野球部監督のKさんが語る。
 「サッカー部員は13人で、野球部員は16人しかいないんですが、こうして試合のマネごとができるだけでも幸せですよ。相馬農業高は部員が4人しかいないし、相双福島として連合チームを組む双葉高の部員は3人(うち女子部員1人)しかいない。他の部からの助っ人で試合に出場すると言っていますけど。この夏後は双葉翔陽高が休部になったし、相双地区の野球はどうなるんでしょうね・・・」
 ライト側後方には仮設住宅がある。その向こうには仮置き場ができていると聞き、行ってみた。塀の隙間から覗いていると、地元住民が声をかけてきた。
 「この仮置き場は6町歩(18000坪)もある。しかしなあ、この周りには仮設も原高もあるし、ちょっと行けば石神第2小と石神中もある。とくに仮設に住んでる者は、『なんでこんな人が住んでる場所に仮置き場を作るんだ』なんて文句をいってる。まあ、反当たり年9万円の補償金が出るらしいし、地主にとってはいいんじゃないの」
 そう言う地元住民に、私は尋ねた。
 「えっ、反当たり年9万円ですか? 霊山町は18万円ですけど・・・」
 それに対し、こう説明した。
 「ああ、その話は聞いたことがあるな。それよりも高いのは、全村避難の飯館村だよ。ここよりも3倍の反当り27万円らしい。でも、この辺の土地持ちは安くともいいのよ。お金をもらえないよりも、少しでももらったほうがいいと思っているんだから。俺に言わせれば放射能なんか、どこに持って行こうと消えることはないしね。それだったら自分の庭にあるよりも除染してね、少しでも遠くにあったほうがいいんだよ。まあ、政治家や役人がやることなんか、その場しのぎの行政ばっかりだ・・・」
 少年時代に川遊びをしていた、新田川に行った。詰所で新田川鮭蕃殖漁業協同組合代表理事のEさんが、鮭をさばいていた。
 「鮭の線量? 保健所で測ってもらったら『検出なし』だったし、食ってもさすけねえ(大丈夫)」
 そう語る、Eさんからいただいたイクラを私はつまんで食べた。
 しかし、問題は2年後だと言われる。放流した稚魚が海に出る前に3・11に遭い、全滅した可能性が高いからだ。放流して4年目の2年後に生まれ故郷の新田川に、どれだけの鮭が戻ってくるかわからない・・・。

筆者プロフィール
岡氏バックナンバー
SAバックナンバーリスト
ページトップへ
          
無料購読お申し込み

advantage
adavan登録はこちら
メール配信先の変更
(登録アドレスを明記)
ご意見・ご要望

Copyright (C) 2004 Sports Design Institute All Right Reserved
本サイトに掲載の記事・写真・イラストレーションの無断転載を禁じます。  →ご利用条件