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vol.570-1(2013年4月10日発行)

滝口 隆司 /毎日新聞運動部記者

高校スポーツに芽生える新たな価値観

 新学期が始まった。3月から4月にかけてのこの時期は、夏と並んで高校スポーツの季節だ。甲子園の選抜高校野球は先週終わったばかりだが、優勝した浦和学院のことを改めて調べていて、高校スポーツの価値観の変化を感じる。

 浦和学院といえば、春9回、夏11回の甲子園出場経験を誇る、まさに「強豪校」という表現がぴったりの学校だ。全国制覇はこの春が初めてだが、優勝時に話題になったのは、意外なことにボランティア活動のことだった。

 野球部は2年前から宮城県石巻市に出向いて、がれきの撤去や仮設住宅での炊き出しを行い、地元の少年野球チームとも交流をしている。震災当初は東北からさいたま市に避難してきた人たちへの支援物資の運搬なども手伝っていた。2年前のセンバツに出場し、大会が終わると、同じく甲子園に出た東北ナインのもとを訪れ、一緒に災害ボランティアにも携わった。そして今も被災地との関わりが続いている。

 強豪校なら、時間を惜しんで練習に邁進し、野球以外のことに目を向ける暇もほとんどないだろう。しかし、浦和学院の野球部は、一時期ではあるが野球のことはひとまず横に置いて、被災地での活動で「社会」と向き合ってきた。

 活動を紹介する浦和学院のホームページの記事に、選手たちの訪問を受けた石巻市立北上中学校の畠山卓也校長のコメントが載っている。

 「『ボランティアは人の為ならず』です。ボランティアに来た人が、支援を受けた人よりも笑顔になる。満足して帰っていく表情を何度も見た。コーディネートする私も、実は元気にさせてもらっている。素晴らしい方々との素晴らしい出会いに感謝している。たとえそれが『一期一会』であったとしても、出会いの喜びは何ものにも代えられない」

 浦和学院だけではない。NHKでは21世紀枠で甲子園に出場した、いわき海星の特集番組が組まれた。彼らがセンバツを前に訪れたのは静岡県。今年最初の練習試合のための遠征だった。相手は昨夏、いわき海星のグラウンドのがれき拾いに来てくれた浜松大平台という学校だ。番組の中で、いわき海星の主将、坂本啓真君が言う。「練習ができるところまでがれきを掘り起こしてくれた。あまり関係のない人なのに、自分たちのためにここまで尽くしてくれる。そんな人がいることにまず驚きました」。一方、浜松大平台の主将、酒井明仁君は「いろいろ感じました。こっちは甲子園に出られるわけじゃないですけど、何か感じたことがたくさんある」と話した。その「何か」が高校生を大きく成長させる。

 浦和学院のHPの記事では、「教師生活22年間の合宿の中でも、一番内容のある密度の濃い活動となった。生徒たちは大変貴重な体験をさせていただき、得るものが大きかった。自分たちの足らなかったものが実体験で学べることもできた」という森士監督の言葉も紹介されている。

 スポーツばかりでは得られないもの、スポーツを通じて得られるものがある。震災から2年が過ぎた春。高校生の姿が少し変わったものに見えた。

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