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vol.592-1(2014年1月9日発行)
岡 邦行 /ルポライター

原発禍!「フクシマ」ルポ―25

 昨年の最後の金曜日、12月27日の夜。『福島を返せ!』のプラカードを手に、首相官邸前の集会に出向いた。私なりに2013年のケジメをつけたかった。昨年は『再稼働反対!』と叫び、秋には『特定秘密保護法案を撤回せよ!』を訴えたのだが、その度にやるせない思いを抱いた。安倍政権に苛立つのは当たり前だが、原子力規制委員会委員長のTも、特定秘密保護法案担当大臣のM女史も福島県出身だからだ。ちなみに今回の都知事選に立候補表明した、防衛省元航空幕僚長のTもまた福島県出身。いろんな人物がいるなあ、福島県出身者には・・・。

 そして、3・11から3年目を迎える、2014年の新年が明けた。
 元旦の午前11時前。JR福島駅前に立った私は、いつものように西口公園のモニタリングをチェックした。数値は0・208マイクロシーベルト(毎時)。3・11から1年間の数値よりも低くなっているが、1年半前に公園内の芝を張り替えて除染した際は、下がるどころか0・3前後に上昇した。この辺が目に見えない放射能の恐さだ。もし、都内で0・3以上の数値が計測されたら、大騒ぎになるだろう。
 何度も強調するが、フクシマにおける除染は名ばかりであり、“移染”といってよい。単に放射性物質で汚染された土壌を、あっちからこっちに移しているにすぎない。
「岡さん、またお会いしましたね・・・」
 JR福島駅西口の南相馬市行のバス停。その声に驚いて振り向くと、南相馬市で居酒屋“O”を営む一方、ランニングクラブを主宰するTさんだった。不思議なことに私は、福島駅前でよくTさんに出くわす。3・11以来、山形県米沢市で妻子と避難生活を余儀なくされているTさんは、週の半分を米沢市で妻子とともに過ごし、残りの半分を南相馬市に戻り居酒屋を開いている。私は取材で帰省するたびに高校時代の友人とOに出向いているが、ここ半年は予約客で満員のためにご無沙汰している。
 福島駅前から南相馬市まではバスで約2時間。Tさんと私は座席をともにした。

 前述したようにランニングクラブを主宰するTさんは、3・11前までは毎年10月に入ると相馬市で開催される「松川大橋ふれあいマラソン」に出場。さらに浪江町の「浪江町コスモスマラソン」、南相馬市小高区の「紅梅の里ロードレース」に出て、12月は地元・南相馬市原町区の「野馬追の里健康マラソン」でハーフを走る。新年を迎えると、原発の町・大熊町の「大熊町駅伝競走大会」に仲間の市民ランナーと参加していた。
 しかし、3・11後のTさんは、原発禍にある浜通りで開催されるマラソン大会には出場していない。一昨年12月に2年ぶりに再開した「野馬追の里健康マラソン」出場も拒否している。
「岡さんも知っているように、会場の雲雀ヶ原陸上競技場は除染したといっても、放射線量は0・3以上あります。その周りは0・6以上が計測されていますからね。そんな場所でマラソン大会を“復興”の2文字を掲げる市が主催している。おかしいですよ」
 そう語るTさんに、私は頷いていった。
「当然ですよ。早い話が、私にいわせれば『市民全員で被曝しょう!』といっているのと同じなんだ・・・」
「だから、私は走りません。市民ランナーは健康のために走るんです。放射線量を気にしながら走るのは厭ですね・・・」
 バスは川俣町を通過し、全村避難地区の飯舘村に入る。田畑のあちこちには雪が積もったブルーシートが見える。その中には黒いフレコンバックに入れられた汚染土嚢があるはずだ。
 Tさんは続けて語る。
「南相馬市は避難している私たちに『早く戻ってこい!』という。でも、市職員の中には現在も家族を市外に避難させている者もけっこういますからね。まずは、そういった職員たちを説得してから、私たちに『戻ってこい!』というんなら、少しはわかるけど・・・」
 Tさんは結婚15年目にして子宝に恵まれた。大事な娘のHちゃんが1歳の誕生日を迎える直前に3・11に遭い、原発から22キロ地点にある自宅を離れて米沢市で避難生活を送っているのだ。
「あれから丸3年が経とうとしている、早いです。もう娘は3月で4歳になる。故郷に戻ってきたいとは思いますが、娘のことを考えると戻れない。友だちはみんな米沢の子どもですからね・・・」
 しんみりとした口調で、Tさんはいった。
 バスは南相馬市役所前に着いた。下車するTさんに、次の終点の駅前で降りる私はいった。
「明日の夜、飲みに行きますのでよろしくね」
 そういう私に、Tさんはつれなかった。
「すみませんねえ、明日は予約でいっぱいなんですよ・・・」

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