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vol.599-1(2014年3月11日発行)
岡 邦行 /ルポライター

原発禍!「フクシマ」ルポ―31

 フクシマのことは忘れない―。そう誰もがいってくれるが、不夜城の東京を目にすれば、素直には信じられない。ほとんど24時間垂れ流すごとく放送するテレビ・ラジオ局は、はたしてエネルギー問題のことをどう考えているのか。頭ん中はスポンサーに対しての視聴率と聴取率のことだけだろう。
 ともあれ、3・11から丸3年が経った。しかし、何度も繰り返すが、未だに汚染水は漏れ続け、いかに除染しても放射能は消えず、原発禍のフクシマの状況は何も変わらない。

 2月末から私は、福島・宮城・岩手の被災地を訪ねた。
 いつものようにJR福島駅西口で午前11時30分発の南相馬市行のバスを待っていると、私と同じ新幹線に乗ってきたという、Aさんに声をかけられた。
 「南相馬まで行くんなら、一緒の席に座わりませんか? 福島の人と喋るのは久しぶりだし、落ち着くんです・・・」
 もちろん、私は「はい」といって、大きく頷いた。私たちは通路を挟み、南相馬まで2時間ほど語り合った。
 今年で84歳を迎えるAさんは、3・11後にさいたま市に住む娘さんの元に夫ともに避難するものの、5ヵ月後の8月に夫は他界した。しんみりとした口調で、Aさんは語った。
 「お父さんは、8月の誕生日の前日に死んでしまった。90歳だったため、みんなが大往生だといってくれたけど、故郷で死なせてやりたかったよ。娘は新幹線の見えるところに住んでいて、お父さんは新幹線を見るたびにいってたの。『新幹線に乗れば、福島に行けっべ。早く家に帰りてえ』って・・・」
 Aさんは、青森・岩手・宮城の営林署勤務40年以上の夫とともに各地を転勤した末、定年後におたがいの故郷である南相馬市に定住。幸せな老後を送っていた。
 「定年後のお父さんは、地元の人と上手くやるために自治会の役員とか区長もやったこともあったの。働き者だったし、もっと長生きできると思ってた。だから、死んだ後に震災関連死ということも考えられるということで、認定してもらおうとしたら駄目だっていわれた。お父さんは震災前から足腰が悪くって、介護の世話になったこともあったため、そういった人は認定できないって・・・。私にしてみれば、避難さえしなければお父さんはまだまだ元気でいられたと思ったけどねえ・・・」
 午後1時20分過ぎ、バスは「心ひとつに 世界に誇る 南相馬の再興を!」と横断幕に書かれた南相馬市役所前に着いた。Aさんは、何度も「原発がなかったら・・・」と呟いた。
 今年1月1日現在、福島県における県内・県外への長期避難者は8万5589人であり、震災関連死は1664人に及んでいる。これは同じ被災県の岩手県の434人、宮城県の879人を大きく上回っている。原発事故で避難を余儀なくされた、Aさんの夫の死を「震災関連死ではないです」と、そうだれが判断するというのだ・・・。

 3月1日。この日は福島県立高校の卒業式だった。私は原町高と、実家近くの小高工業高の仮設校舎を訪ねた。
 我が母校・原町高の今年の卒業生は134人であったが、福島第1原発から20キロ圏内の避難指示解除準備区域にある小高工業高の卒業生は79人。卒業式は仮設校舎に隣接する南相馬市スポーツセンターで行われた。
 「卒業生は3年前の震災の年に入学したんですが、彼らは小高区の本校舎には受験のときしか入れなかったんです。そのときの合格者は212人でしたが、3年後の今回卒業したのは79人・・・。残りの133人は県内や県外の他校に編入したり、途中で転校してしまった。3年間頑張った79人はたった1日も本校で学ぶことなく、サテライト校や仮設校舎に通わなければならなかった。たとえ79人の進路先が決まったとはいえ、とくに今回の卒業生は可哀相でした・・・」
 式後に校長のBさんは私に語った。
 ちなみに3・11前の小高工業高は毎年成績優秀な卒業生10人ほどが無条件で“大企業・東電”に就職することができた。しかし、3・11後から2年間は採用中止になり、3年ぶりに採用が再開された今年は3人が東電に入社する。
 翌2日。私は小高区に出向いた。JR小高駅前の自転車置場には3年前と変わらず、主を失った百台以上の自転車が放置されていた。閉鎖された小高工業高に行くと、正門前には何本もの「除染作業中」と書かれたの旗が立ち、グラウンドには汚染土が入った黒いフレコンバッグが山積みになっていた。

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