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vol.621-1(2014年10月31日発行)
岡 邦行 /ルポライター

原発禍!「フクシマ」ルポ―47

 3・11後は毎月のように原発禍の地に出向いて取材をしている。故郷の現状を報じることは当たり前であり、取材をすればするほど原発事故の怖さ、その闇の深さを思い知る。
 そして、最近はさらに苛立ち、滅入ってしまうことが多い。たとえば、今回の県知事選―。
 すでに新聞などで報じられているように「脱原発」が争点になるべき知事選だったが、当選した新知事は自民・民主・公明、さらに社民までもが相乗りして支持された輩。そのためだろう、県内の原発の廃炉は口にしたものの、県外の原発については言及しなかった。
 要するに今回の知事選は、ひと言で何かと窮地に追い込まれている、自民党が仕掛けた茶番劇。そのため投票率が過去2番目に低い45・85%であった。が、投票した県民にも問題はなかったか。
 ともあれ、今回の知事選はしらけていた。選挙期間中に福島を訪ねたが、知人でさえも「6人も立候補したといっても、当選する人は決まっている」と無関心。福島駅西口の公園近くにあった候補者のポスターが貼り出された掲示板の前で、20分ほど道往く人を眺めていたが、立ち止まる人は皆無。我関知せず、といった感じだった。
 投票権を持つ福島県人すべてとはいわないが、何を思っているのだろうか。原発事故は世界が注視する大問題。現状を発信する責任があると考えているのなら、まずは県知事選で何らかの意思表示をするべきだった。そう私は思うのだ。未だ12万人を超える県民が県内・外での避難生活を余儀なくされているのだから。

 この夏、新宿の行きつけの居酒屋で飲んでいると除染作業員に会った。昨年10月から福島で除染作業員として半年間働き、この10月から再び福島に行っている。酒を飲みつつ、彼はいった。
 「去年かな、新聞に手抜きの除染作業をしていると書かれ、問題になったけど、いくら除染をしても放射能の線量なんか低くならないんだ。つまり、手抜きしょうがしまいが放射能は無くならないということ。たとえばね、作業前の朝礼のときに『線量の高いホットスポットだけは見逃すな』とね、厳しくいわれる。そのため山の中の風の吹きだまり、小川の水が溜まるところを、手抜きせずに重点的に除染する。そういった場所が一番汚染されているからね」
 そして、彼はこんな話も伝えてくれた。続けていった。
 「除染作業員でも重機の免許を持っていると、当然なんだが特別手当てがでる。そのため若い連中なんかは金欲しさに免許を取るんだが、よく斜面から転げ落ちて事故を起こすんだな。怪我で済めばいいんだが、俺が知ってるだけでも3人は死んでるね・・・」
 除染作業員が事故死している? 初めて耳にする話だ。
 「斜面を上るときの感覚が身についてないんだな。無理して急勾配を上ろうとして、転げ落ちるんだ。まあ、塗装屋の俺は食えないから除染作業員をやってるが、やくざがけっこういる。そのため問題を起こされると困るんだろう。俺らを管理する連中から強くいわれる。『お前らは町に飲みに行くな』って。地元住民が怖がるからね・・・」
 地元住民が除染作業員を怖がっている―。
 この話は私も知っていた。たとえば、復興作業員が出入りするコンビニに女性客は行かなくなった。またパートで働くことも避けているという。さらに「一見さんお断り」といった張り紙をだす一方、予約が入っていないのに「予約席」にする飲み屋もあると聞く。作業員の中に、その筋の人間がいるからだ。
 もちろん、すべての作業員に問題があるとはいわない。が、私は作業員が住民を脅しているのを目撃したことがある。
 7月7日の夜、馴染みのラーメン屋にいるときだ。突然、腕に刺青をした2人の作業員が席を立ち、小学生の女の子を連れた夫婦を前に怒鳴りだした。「よくも俺らにガンをつけてくれたな・・・」「この野郎、ふざけた真似をしやがって・・・」と。その声に女の子は震えていた。私は呆気に取られたが、作業員が乗ってきた車のナンバーをチェックし、ポケットの携帯を握った・・・。
 その間、約3分。大声を張り上げただけで2人の作業員は車で立ち去り、パトカーを呼ぶことはなかった。聞けば、ラーメン屋にくる前に食事しているときだという。近くの席にいた2人の作業員があまりにもうるさいため、注意の意味を込めて咳払いをした。どうもそれが気に入らなかったみたいだ。そうお父さんは私に、事情を語ったが、もし作業員たちが手をだしていたらと考えると、気が重い・・・

 10月半ば、県知事選中に私は、2年ぶりに会津地方をレンタカーでまわった。久しぶりに裏磐梯の五色沼の湖面を眺め、高校時代にインターハイ出場を決めた鶴ヶ城内のテニスコートも見た。そこで気が付いたのだが、会津地方には放射線量を測るモニタリングポストを見かけなかった。「原発事故で喘ぐ、浜通りとは違うなあ」と痛感した。
 帰途のJR福島駅。新幹線ホームへの階段を上ると「ようこそ!福島へ 福が満開、福のしま」と書かれたポスターがあった。その惹句を見ながら「福が満開、福のしま? そうかなあ」と思った・・・。
 上り新幹線に乗り、缶ビールを手に車内誌『トランヴェール』を広げた。特集記事は「麗しき鳥海山を楽しむ旅」だ。ページを開いて、ようやく私の複雑な気持ちは癒された。写真家の小松ひとみさんの写真が満載されていたからだ。
 秋田県角館町(現・仙北市)生まれの小松さんは、女子バスケットボールの名門・ユニチカの元選手で、日本代表チームのマネージャーを務めたこともある。引退後は故郷に戻り、写真家に転身した。主に東北の自然をテーマに撮っていて、私が初めて彼女を取材したのは2011年の2月末。六本木で写真展を開いたときだった。
 その3年8ヵ月前の取材後の酒席が懐かしい。彼女の好きな作家は、私と同じ故・吉村昭さんであり、とくに感銘を受けた1冊をあげれば、ともに『羆嵐』だったからだ。
 その懐かしい取材の2週間後に羆ではなく、3・11が襲ってきたのだ・・・。

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