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vol.607-1(2014年5月19日発行)

滝口 隆司 /毎日新聞運動部記者

ついにスポーツ国策化の道へ

 スポーツ庁創設に向けた超党派スポーツ議員連盟の有識者会議(河野一郎座長)の提言がまとまった。その議論の中で焦点となったのは、税金やサッカーくじなど公的資金からの強化費を、これまで通りに日本オリンピック委員会(JOC)を通して競技団体に配分するかどうか、という問題だ。

 有識者会議はさまざまな分野のスポーツ関係者で構成される。そんな事情もあり、提言では「配分方法については、有識者間においてもその立場・視点により意見が異なる」と結論を明確にしなかった。

 サッカーくじを運営する文部科学省の外郭団体、日本スポーツ振興センター(JSC)を改組した新独立行政法人に配分元を一元化する点では異論が出なかったが、新法人からJOC経由で競技団体に配分するのか、JOC抜きで行うのかは決まらず、両論併記という内容となった。

 しかし、会議でその中身が読み上げられると、陪席していたスポーツ議員連盟の国会議員からは「両論併記になっているが、JOCでは加盟団体の不正経理問題があった。強化予算の執行を行う体制がJOCには整っていない」「税金を使うわけなのに、JOCはけじめをつけていない」などと厳しい意見が飛んだ。

 恫喝するような雰囲気の中でJOCの役員たちはうろたえるほかなかった。国会議員の意見が反映されれば、強化の権限はJOCからもぎとられる可能性が高いだろう。確かに柔道などのJOC加盟団体では不正受給の問題があり、補助金や助成金の経理をごまかしていた。それに対するJOCの責任もあいまいだった。

 だが、いくら税金を使うとはいっても、政治家がスポーツ関係者をつるし上げるようなやり方が健全とは思えない。このままでは、JOCは選手団派遣手続きと五輪運動の推進のみが仕事となり、強化の権限はスポーツ庁傘下の新独立行政法人に移る。こうして日本のトップスポーツは一部プロを除き、国策によって動かされることになる。その日が間近に迫ってきた。

 民間団体であるJOCは1980年モスクワ五輪が政府の意向に沿って不参加となった後、政治との距離を置くために日本体育協会から独立した。1991年のことだ。だが、90年代後半からの不況でスポーツ界の基盤が揺らぎ、国に強化費を依存する体質が高まった。国立スポーツ科学センターやナショナルトレーニングセンターの設置、文科省のマルチサポート事業などで恩恵を受け、メダルの数を大きく増やした。だが、結果的には重要な役割を国に奪われることになる。

 2000年に文部省(当時)が掲げた「メダル倍増計画」の掛け声に踊らされ、JOCはメダルと引き替えに大事なものを失うような気がしてならない。国に頼らず、なぜ独立の志を貫けなかったか。JOCはその歴史と向き合い、オリンピックとはだれのものかをもう一度問い直す必要がある。

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