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vol.631-1(2015年4月28日発行)

佐藤次郎 /スポーツライター

「五輪の風景」−1
 「NO!」にどう答えるのか

  オリンピックについて、あらためて書いてみたい。といったところで、いまさら何をという声が聞こえてきそうだ。実際、2020年には東京に二度目の聖火がやって来ると決まって以来、オリンピックのことはあらかた書き尽くされた感じもする。世の中には2020年大会の話題があふれ返っている。
 だが、ちょっと待ってほしい。そうだろうか。オリンピックのことは論じ尽されているのだろうか。いや、そうではない。確かにオリンピックの話題はあふれているが、そこには大事なことがひとつ欠けているように思う。
 オリンピックはどうあるべきか。オリンピックはこのままでいいのか。オリンピックの本来のあり方はどうだったろうか―このことである。
 「何をいまさら」の声がまたしても聞こえてくるだろう。これだけ発展した現代のオリンピックを前に、そんな青臭い書生論を蒸し返して何になるというわけだ。確かにものごとは時代に沿って変わっていく。オリンピックの変貌もある意味では当然と言わねばならない。ただし、勢いよく突き進んでいる時ほど、自らの足下は見えにくくなる。進むべき方向がずれ始めているのに気づかなくなる。立ち止まって、しばし原点を見直し、将来を見定めるのを忘れてはいけない。
 というわけで、オリンピックのあり方という原点を土台として、さまざまな五輪の風景をあらためて見渡していこうと思う。そこにはもちろん賛成も反対もあるだろう。ただ、なんにせよ、さまざまな側面をもう一度振り返ってみれば、そこから新たな視点、新たな方向が見えてくることもあるはずなのだ。

 そこでまず頭に浮かぶオリンピックの新たな風景はこれだ。2022年冬季五輪の開催地選びである。
 いま五輪をめぐる最もホットな出来事を簡単に振り返っておこう。当初、多くの都市が立候補の意思を示していた2022年。しかし、有名ミステリのタイトルをもじって言えば、「そして誰もいなくなった」のだ。
 ミュンヘンが消えた。ストックホルムが消えた。ポーランドのクラクフも退場した。立候補して、しばらくは最有力とみられていたオスロも、結局は撤退した。残ったのは北京と、カザフスタンのアルマトイ。これまで冬季競技の国際舞台ではさほど目立たなかったアジアの候補だけが最終の選択肢となった。
 各都市の撤退理由としてまず挙げられているのは、開催にともなう巨額の財政負担だ。有力とされたオスロもそうした点で地元の支持が得られず、招致を断念せざるを得なかった。巨大な規模を競い、先進性や豪華さを競い合う近年のオリンピック。開催に多大なメリットがあっても、それで強いられる負担の重さは無視できないというのが撤退した各都市の判断だろう。とめどない拡大路線、いわばイケイケドンドンの路線に、ついに亀裂が生じたのである。
 これは近年の五輪をめぐる動きの中で最も衝撃的な出来事と言わねばならない。冬季大会ならではの事情もあるとはいえ、五輪運動の中心となってきた欧州の都市が相次いで開催に背を向けたのは、すなわち、いまのオリンピックのありようの一側面に、はっきりと「NO」が突きつけられたということだからだ。
 こうした流れを受けて、国際オリンピック委員会(IOC)は中長期改革案「アジェンダ2020」を出した。IOCの切迫した危機感の表れといえる。これはチャンスだ。オリンピックのあり方をいま一度見直すための願ってもない機会を、ぜひとも生かしたい。

●プロフィール
スポーツライター ジャーナリスト
1950年横浜生まれ。
中日新聞社に入社し、同東京本社(東京新聞)の社会部、特別報道部などをへて運動部勤務。夏冬合わせて6回のオリンピック、5回の世界陸上を現地取材。
幅広く各種競技を取材するかたわら、大型コラム「Sports もうひとつの風景」「スポーツの滴」を長期にわたって連載。スポーツ関連の社説も執筆した。
運動部長、編集委員兼論説委員を歴任したのち、2015年退社。スポーツライター、ジャーナリストとして本の執筆、評論活動などを続けている。
ミズノ・スポーツライター賞、JRA馬事文化賞を受賞。
■著書
東京五輪1964 (文春新書 947)、義足ランナー: 義肢装具士の奇跡の挑戦(東京書籍)、孤闘―スケルトン越和宏の滑走十年(新潮社)、砂の王メイセイオペラ(新潮社)など。

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