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vol.673-1(2016年4月26日発行)
岡 邦行 /ルポライター

原発禍!「フクシマ」ルポ―75

  4月4日から日刊ゲンダイで『原発禍の街の真実』のタイトルで連載(月曜〜金曜、計15回)し、先週で終えた。昨年は『原発禍の街を行く』を連載したところ、読者の反響があったため、今年も連載することができた。とくに私が書きたかったのは、昨年秋から取材に取組んでいる「原発禍の街の高齢者問題」だ。
 いまだ1万人以上が県内外に避難している南相馬市の高齢化率は32パーセントを超え、2万余人もの高齢者を抱えている。問題は介護認定者数で、震災前は2700余人だったが、現在は約3400人。そのうち車椅子使用や寝たきりの認定者は950人に及んでいる。それに加えて、南相馬には原発の街の浪江町や双葉町、大熊町などの町村から2500人を超える人たちが避難している。その多くが高齢者だ。
 私が幼い頃からお世話になっている84歳のお婆ちゃんは、1年間もの避難生活で認知症が進み、寝たきりになった。要介護5に認定されたものの、老人ホームに入ろうとしても順番待ちだ。
 震災前、南相馬には15施設(680床)の特養や老健、グループホームがあった。しかし、津波で36人の犠牲者を出した老健が休止するなど12施設(591床)に減少。実に延べ2110人(実数約480人)の介護認定者は順番待ちの最悪の状態だ。そのため在宅での老老介護も多い。

 私は特養の「万葉園」を訪ねた。2年前に40床増やして90床になったが、稼働しているのは50床のみ。介護職員が集まらないためだ。
 「入居者3人に対して1人の介護職員が必要。そのため万葉園は最低17人を確保しなければならないが、現実的には20人ほどいないと稼働できない。そういった現場を知らない厚労省は17人分の報酬しか設定しない。そのために介護職員の月給は他業種よりも10万円ほど低いんだが、その上に地方の報酬は東京などの都市よりも安い。同一労働なのに同一賃金どころかうんと低いんです・・・」
 ある特養の施設長は説明した。私は尋ねた。
 「同一労働なのに同一賃金ではないんですか?」
 「つまり、報酬の単価が違うんです。南相馬の場合は、基本単価は10円ですが、東京は18円です。たとえば、要介護5の認定者を介護する場合は1日800単位という設定基準がある。それで計算すると南相馬は10円×800単位だから8000円。東京では18円×800単位で1万4400円。6400円もの差が出る。そういうことで、いかに東京のほうが物価が高いといっても納得できないほどの格差が生じる。おかしいでしょう」
 そう詳しく説明する施設長は、続けていった。
 「何も私どもは東京などの都会と給料を同じくしろとはいいません。ただし、復興期間でもいいんです。被災地特別報酬制度といった被災地を支援する制度を設けて欲しい。そうすれば少しは介護スタッフ不足問題は解消すると思う・・・」
 私はデイサービスの施設も訪ねた。担当者はこういった。
 「一応、被災地緩和で10人収容の部屋に18人入れていますが、すし詰め状態です。それに車椅子使用のお年寄りはいいんですが、正直いって歩けるお年寄りを預かるのはためらう。他の施設同様に介護スタッフを募集しても集まりません・・・」

 仮設暮らしのお年寄りは私にいっていた。
 「避難している年寄りの3K≠知ってっか。『健康か?』『金はあっか?』『孤独でねえが?』の3つだ。5年も仮設暮らしの私らの話題といえば、そんなことばっかりだ」
 一方、世話をする介護職員はいった。
 「私たち介護する側の3Kは『きつい』『帰れない』『給料が安い』です。ついでにもうひとつ付け加えれば『国を恨む』でしょうね」

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