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vol.675-1(2016年5月10日発行)
岡 邦行 /ルポライター

原発禍!「フクシマ」ルポ―77

 20年東京オリ・パラのスローガンは「復興五輪」だ。しかし、被災地を訪ねると誰もが首を傾げ、異議を唱えている。
 楢葉町と広野町にまたがるJヴィレッジに行くと、1年前と同じ光景だった。11面あるサッカー場は廃炉作業に従事する4000人以上の作業員の駐車場と化し、石ころだらけ。敷地内には廃棄物や資材が積まれている。
 今年の2月、日本サッカー協会は4年後のオリンピックの際、男女日本代表の事前キャンプをJヴィレッジで行うと発表。さっそく楢葉町と広野町で構成する設備計画協議委員会は、県の指示で屋根付き練習場と宿泊施設を建設することを承認し、現在はセンターハウス改修のために足場が組まれている。だが、本当に現場を視察して決めたのか疑ってしまう。第一、未だに除染もされていないのだから。
 「早い話が選手たちに『被曝しなさい』といってるようなもんじゃないの。昨年9月に避難解除された楢葉町なんかは、半年以上経つのに避難先から戻ってきたのは460人ほどで、帰還率は7l以下だ。復興五輪? そんなもんはお笑い種だよ、私らにいわせれば・・・」
 地元住民は、そういって笑った。

 ほぼ全域が立入禁止の帰還困難区域の原発の街・大熊町。役場職員OBを中心に編成される、人呼んで「じじい部隊」を取材した。防護服姿で昼間は町内を隈なくパトロールし、一時帰宅の住民をサポート。治安維持に奔走している。
 「一番ごせやける(腹が立つ)のはドロボーです。何でもかんでもかっぱらうんだから。ポットまで持って行くしね。それにコンビニのATMなんかは重機でこじ開けてしまう。原発作業員までもが、仕事の合間に400点ほど盗んでいたんだからね。人を見たらドロボーと思えだよねえ」
 隊長役のHさんは呆れ顔でいった。
 そして、「復興五輪」についてはこういった。
 「懸念するのは、4年後の五輪の会場建設のために作業員が東京に流れることですよ。私らは百姓だから草刈のプロだけど、除染作業員らは初め草刈機や重機などを扱うのもヘタクソでね。重機が引っくり返って死んだ者もいる。今ではうまくなったけど、その人たちが賃金のいい東京にいったら、除染は今よりもうんと遅れてしまう・・・」
 傍らのKさんもいった。
 「それでオリンピックの年にまだ除染されていない立入禁止の帰還困難区域があったら、面白がって写真を撮りにくる外国人もいるんじゃないかな。これではおもてなし≠ヌころか日本の恥だ。作業員が継続して働けるよう、国は復興手当などを考えるべきだ。私らはそう思ってんだ・・・」

 「復興五輪」を掲げる当局の狙いは、オリンピックを利用して原発事故をうやむやにすることだろう。昨年7月、遠藤利明五輪相は明言している。
 「可能であれば福島県で予選(1次リーグ)などができればありがたい。また、選手村で福島産の食材を使うということもある。さまざまな形で被災地との関係を強めたい・・・」
 今年の1月、福島在住の陸上競技の日本記録保持者の元オリンピック選手に会った。彼は原発事故当時、毎時10マイクロシーベルト以上の線量を浴びている。私を前にこういった。
 「20年東京オリンピック開催はいいとしても、『復興五輪』というのは納得できないね。里山の除染問題もあるし、大事な子どもたちの甲状腺検査の問題もある。みんなが真摯な態度で原発事故と向き合わなければならない・・・」
 あの山積みされた放射能汚染物が入った黒いフレコンバッグを見ただけでも、気軽に「復興五輪」なんていう言葉を口にすることはできない。

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