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vol.688-1(2016年9月27日発行)
岡 邦行 /ルポライター

原発禍!「フクシマ」ルポ―79

《ダム底高濃度セシウム 福島第1周辺10ヵ所8000ベクレル超》
 9月25日付の毎日新聞1面に、以上のタイトルが付いた記事が報じられた。最近の毎日新聞は、東京新聞同様に原発関連報道に力を入れていると思われる。
 それはともあれ、環境省の調査によると、原発事故を起こした福島第1原発周辺の飲料用や農業用のダムの底に放射性セシウムが濃縮され、高濃度で溜まっているという。飯舘村の岩部ダムでは指定廃棄物となる基準値(1キロ当り8000ベクレル)を大幅に上回る8倍の6万4439ベクレルであり、私が小学生時代に林間学校で行っていた南相馬市の横川ダムは2万7533ベクレルだ。
 環境省は、ダムの水の放射線量は人間の健康に影響は与えるレベルではないとして除染はしないといっている。だが、私は思う。台風などの大雨でダムが決壊し、大量の水と放射性物質がまみれた泥が流出したらどうなるのか。考えただけでも恐ろしいではないか。
 ちなみに除染後の空間線量についてはモニタリングポストによって明らかになっているが、土壌汚染についてはほとんど報じられていない。たとえば、小・中学校の校庭の表土はたしかに除染された。だが、その放射性物質が含まれた表土は、校庭の片隅に穴を掘り、青色のベネトンと称されるマットに包まれて未だに埋まったままだ。その上で児童や生徒は遊んでいる・・・。

 原発禍にある南相馬市の生活圏の除染は来年3月で終わるという。しかし、放射線量が高い山林の除染は手つかずのままだ。
 昨年4月、年間被曝線量が20ミリシーベルトを超える特定避難勧奨地点(ホットスポット)の解除(14年12月)を違法とし、南相馬市の住民808人が行動を起こした。国に取消しを求めて東京地裁に「南相馬20ミリシーベルト撤回訴訟」として訴えたのだ。
 あれから1年半が経過した。3月末、私は原告団長の菅野秀一さんの自宅を訪ねた。これまでの裁判を振り返り、菅野さんはいった。
「もう呆れるというか、子どもだましもいいところ。『本当に国が雇った弁護士なの?』と疑いたくなるほど我々の弁護士の質問に対し、ほとんど答えられず『後ほど文書で渡す』といって逃げたり、その上『原発事故に関する法律はないため、却下してくれ』と。我々は今後も原発事故は起こり得る。そのためにも新たな法律が必要だと考え、国に訴えたのにね・・・」
 そして、菅野さんは線量計を手に、私を前に自宅周辺を計測した。
「この通り、除染しても毎時2・21マクロシーベルトもある(基準値は0・23マイクロシーベルト)。とうてい水道水なんか飲めない。東電の相談所に出向くと、ミネラルウォーターをもらえるんだが、考えてみればおかしな話。国は年間20ミリシーベルト以下なら水道水も飲めるといい、東電は『これを飲めば大丈夫』とばかりにタダでくれる。国も東電もやってることが滅茶苦茶だ・・・」
 さらに裏山にも案内してこういった。
「私は山菜やキノコ採りの名人といわれたけど、今は名人を返上しました。放射能で食えたものじゃないし、土深く生えるマツタケは3年前から急に線量が高くなり、1キロ当り3万ベクレル以上だ。私のような年寄りでもおっかなくて食えたもんじゃない。もう里山は放射能で死んじまった・・・」

 私は時間が許す限り東京地裁に出向いて「南相馬20ミリシーベルト撤回訴訟」を傍聴している。その第5回公判が明日の28日に開かれる。6月6日の第4回公判後に原告側弁護団が訴えていた。
「今回は98席ある傍聴席のうち71席しか埋まりませんでした。これでは42席しかない小さな法廷に移されるかもしれません。この訴訟をもっと世間にアピールしなければなりません!」
 明日の9月28日、原告団長の菅野さんを筆頭とした南相馬市の住民はバスで上京。昼の12時30分から経産省本館前で抗議アピールし、さらに1時からは東京地裁前で応援アピールする。傍聴券配布の締め切り時間は1時半。第5回公判は2時から103号法廷で行われる。出向こうではないか!

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