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vol.690-1(2016年10月5日発行)
岡 邦行 /ルポライター

原発禍!「フクシマ」ルポ―80

 10月1日に開幕した「希望郷いわて国体」は、11日まで開催されている。ふと私は思う。
 ―あの取り外した椅子に、どんな人が座って競技を観戦しているのだろうか、と・・・。
 すでにこの連載ルポ39に記しているが、一昨年の6月29日の日曜日。私は解体される前の国立競技場の座席の取り外し作業に参加した。2年後の今秋開催される、希望郷いわて国体のメイン会場になる北上市の北上陸上競技場が老朽化に伴い、岩手県と北上市が座席の取り換えに国立競技場の座席を再利用することを提案。JSC(日本スポーツ振興センター)に申請して受理され、私は約600人のボランティアの1人として座席の取り外し作業に参加したのだった。
 13ミリのレンチを手に腰を屈め、座席下の2ヵ所のボルトを緩める。さらに10ミリのレンチで4ヵ所のボルトを外せば座席を解体することができる。約3時間、私たちボランティアたちはタオルで汗を拭いながら作業を続けた。
 終了後、北上市役所の職員がマイクを持ってアナウンスした。
 「マジックインキを用意しました。外した椅子の裏側にみなさんの名前を書いてください。記念になると思います・・・」
 そこで私は、青いポリエチレンブロー形式の椅子の裏側に大きく「岡邦行」と書いたのだった。
 もちろん、今も変わらぬが、「新国立競技場建設反対!」を訴える者としては座席の取り外しに参加したことは、少なからず複雑な思いだった。ただし、あれから2年後の今、その椅子に座り、競技を観戦している人がいると思うとささやかな安堵感を抱く・・・。

 久しぶりに解体された国立競技場の跡地に行った。東京体育館側から俯瞰するように眺めると、その姿は地震と津波、さらに原発事故に見舞われた被災地と何ら変わらない。瓦礫は残らず撤去されたものの、クローバーなどの雑草が生い茂り、ブルドーザーで掘られたフィールドの窪地には雨水が溜まっている。
 先月末、政府は閣僚会議で4年後の東京オリンピック・パラリンピックのメイン会場となる、新国立競技場に関する設計や工期などについて確認した。それによると3年後の19年11月末完成で、総工費は1490億円だという。
 しかし、私に限らず、誰も信じてはいないだろう。総工費は軽く2000億円を突破するはずだからだ。問題の豊洲市場の場合は、6年前は総事業費4316億円だったが、今では5884億円に膨らんでいる。また、四半世紀前になるが、1990年に竣工された東京体育館は、イニシャルコスト(初期費用)150億円だったが、なんと完成時は3倍の450億円になってしまった。建設費などが膨らんでしまうのは業界では当たり前だといわれる。

 前述したように私は、一昨年の6月29日に国立競技場の座席を取り外した。その際、北上市からボランティアできた同年代の男性がいった言葉を、あらためて思いだした。記したい。
 「3・11の後だったな。県側は『国体なんか開催している場合じゃない。それよりも復興だ』なんていってたけど、いつの間にか『復興のためにも国体をやんなきゃなんねえ』なんていうようになったんだ。私らは地元で開催するというなら、いろいろと手伝わなくちゃなんねえ。でも、解せねえことはいっぱいある。ここを壊して新しい競技場の建設が始まったら、岩手や宮城、福島にいる作業員はこっちにくると思うし、資材だってこっちのほうが優先される。なんか複雑だな・・・」
 4年後に「復興五輪」を掲げて開催される東京オリンピック・パラリンピックも同じ構図ではないか。

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