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vol.668-1(2016年3月3日発行)

佐藤次郎 /スポーツライター

「五輪の風景」−23
  テレビという独裁者

 前回に続いて「オリンピックとメディア」を考えたい。今回はテレビについて。このテーマでは、これこそが主題となる。

 今日のオリンピックの隆盛はまさしくテレビによるものだ。テレビあってこそ、これほどの規模拡大、発展が可能となった。何より重要な事実と言わねばならない。
 だが、オリンピック発展の最大の原動力として多大の敬意を払いつつも、その強大なパワーが生んできたマイナス面も一方では考えておかねばならない。このことはもう何十年も論じられてきていて、まったく新味がないともいえようが、それでもなお、機会あるごとに指摘しておくべきだと思う。

 オリンピックに対するテレビの影響力はあまりに巨大で、すべてにおいてテレビの意向が最優先される。アメリカのプライムタイムに合わせて競技時間が設定されることも少なくないし(その結果、選手や地元の観客には不都合な時間となる)、開閉会式があれほど豪華にショーアップされるのもそのためだろうし(何しろ、超高額な入場料を払って観客席にいても全貌はわからない。テレビでこそすべてがわかりやすく見られる)、競技そのものがテレビ向きに変えられてしまうのは日常茶飯事になってしまった。現在のオリンピックの最大原則は「テレビ本位制」である。
 そうでなければ現状が成り立たない以上、受け入れねばならないことではあるかもしれない。競技ルール変更などが見る側のわかりやすさや人気の面でプラスに働いているケースも少なくない。が、なんでもかんでも「テレジェニック」を第一原則としていれば、おのずとゆがみが出てくる。すべてをテレビ向きにショーアップしていくうちに、純粋なスポーツの祭典という本来の姿は色あせてしまった。それぞれの競技が長い時をかけて培ってきた味わいも消えつつあるし、伝統競技が隅に押しやられて、ショー的要素の強い新競技ばかりにスポットライトが当たってもいる。それらは果たしてオリンピックのためになっているのか。時代の変遷につれて変化していくのが当然とはいえ、オリンピックの本質、あるべき姿は変わらないはずだ。また、変えてはいけないはずだ。
 いまのテレビには、オリンピック大会そのものを伝えるという姿勢が欠けているように見受けられる。オリンピックを単なるテレビのコンテンツとして利用することばかり意識していて、本来のあるべき姿など考えない。そこで、コンテンツとしてより使いやすいように変えてしまうこともいとわない。それではどんどんゆがみが増幅していくばかりだ。

 世界中にテレビ視聴者がいて、それゆえに多くのスポンサーが集まるのだから、この「テレビンピック」は変わらないだろう。変えようがない構造なのである。ただ、開催希望都市が減りつつあることなどに象徴されるように、オリンピックの現状そのものがひとつの曲がり角にさしかかっているのは間違いない。それに対して、最大権力者たるテレビは何を考えているのか。オリンピックについて、どんな将来像を描いているのだろうか。
 そして日本のテレビのオリンピック放送についても語っておきたい。現状はひとことで表現できる。「ほとんどすべてがバラエティ番組化している」のだ。
 競技の中継にしろ特集番組にしろ、パターンは決まっている。スタジオにお笑い芸人と称する者やらアイドルやらを集めて中身のないトークを繰り広げ、中継の場合でも、試合開始のずっと前から、これまでを振り返る映像を大げさきわまるナレーションで延々と流し、やっと競技が始まったかと思えば、またしても大げさな絶叫調のアナウンスや感情的な解説コメントのオンパレードとなる。つまりこれは、しばらく前からテレビ界を席巻しているバラエティ番組でしかないではないか。競技はバラエティショーのコンテンツのひとつでしかないというわけだ。

 最初は民放で始まったことだが、最近ではオリンピック中継の中心となるNHKでも同様の傾向が顔を出すようになった。他のジャンルと同じく、ひとつ流れができればどこもかしこもそれを追いかけ、真似をするという近年のテレビ業界の傾向が、ここでもそのまま繰り返されている。競技の魅力、オリンピックならではの面白さを伝えようという姿勢は希薄だ。大仰に持ち上げるわりに、オリンピック競技やオリンピアンに対する敬意など、いっさい感じられない番組づくりも少なくない。
 最近は視聴者も慣れてしまって、それが当たり前と思うようになっているように見える。が、本当にスポーツが好きなファンたちは、苦々しい思いでこの状況を見つめている。スポーツの真の面白さ、オリンピックの本当の魅力が、そこからはちっとも伝わってこないからだ。

 1964年、初めて自分たちの手でオリンピックを伝えることとなったテレビマンたちは、競技そのものの魅力をなんとか伝えようと必死の努力を重ねた。そんな気概を持った放送人は、もうどこにもいないのだろうか。

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