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vol.678-1(2016年6月8日発行)

佐藤次郎 /スポーツライター

「五輪の風景」−30
  「IOC会長を出す」意気込みを

 2020年東京大会招致をめぐる不正疑惑は、どんな方向へと進んでいくのか、まだその行方は見えてこない。オリンピック招致ともなると、ありとあらゆる手を打つことが要求されるし、これだけ大がかりな招致活動が繰り広げられる時代となれば、そこには微妙な色合いを持つ側面も少なくないだろう。とりあえずはフランス司法当局の捜査を見守るしかないが、一方ではJOCの調査チームの検証も始まっており、関係者には一連の経緯について誠実かつ具体的な説明を求めたい。捜査の行方にかかわらず、あいまいなままではまたしてもオリンピックへの不信を招くことになる。
 つけ加えておきたい。これはトップをはじめとする招致委員会全体の、すなわち現在の組織委員会に直接つながっている問題だ。結果はどうあれ、一部に責任を押しつけるのではなく、全体の責任として受け止めねばならないことだとクギをさしておこう。
 そして今回の問題は、以前から繰り返し指摘されてきた課題を垣間見せてもいる。日本のスポーツ界に国際性が乏しいことである。
 どの競技団体も国際面に弱さがあるとは、ずいぶん前から言われていることだ。IFの中枢で活躍する人材が少なく、人脈も乏しい。当然、世界の流れに敏感に反応できない。英語など語学力が弱かったこともあって、積極的に国際舞台に出ていく姿勢がなかなか出てこなかったのである。いまは言葉の問題にしてもずいぶん状況が変わってきているはずなのだが、国際面で消極的という姿勢はまだ引きずっているように見える。かつては2人だったIOC委員も、いまは竹田恒和JOC会長ただ1人。その後継者にこれという名前が挙がってこないところにも、相変わらずの状況が見てとれるのではないか。
 オリンピック招致でそれが大きなハンディとなるのは言うまでもない。国際スポーツ界、わけてもIOCなどという閉鎖的な社会でものをいうのは、なんといっても人脈の厚さ、深さであり、それがもたらす情報の量と質であるからだ。だが日本のスポーツ界には、世界に張り巡らしたネットワークがない。いざという時に頼りにできる人間関係も少ない。そこで代理店やコンサルタントに頼ることが多くなるのだが、任せるばかりの形ではトラブルも起きやすいし、問題となった時の処理も遅くなる。微妙な側面への的確な判断もできるかどうか・・・。海外コンサルタントとの契約とその費用支払いが疑惑につながってしまった今回は、まさにそうした弱みが出たというところだろう。
 いずれにしろ、もっと海外で活躍できる人材を増やさねばならないのだが、ただそうした人物の出現を待っているだけでは、現状はさほど変わっていかない。よく指摘されるように、計画的に国際面で活動できる人材を育て、発掘し、抜擢して送り出していく態勢が必要なのだ。国際舞台で知名度を上げ、人間関係を築いて信頼を獲得するにはそれなりの時間がかかる。すぐに国際面での能力が上がっていくというわけにはいかない。とはいえ、これが必ず取り組まねばならない課題なのは、いくつもの事例が証明している。
 といって、国際性が必要なのは、招致などにおける「政治力」のためばかりではない。この問題は常にスポーツ政治の面で自国の利益をはかることにからんで論じられるが、それはいささか偏った考えだ。国際性を持ち、海外との連携をはかるのは、あくまでスポーツ全体、競技全体の発展のためだろう。
 オリンピックに関してもそうだ。大会招致や競技種目に関する日本の利益のためばかりではない。新たな時代にふさわしい、よりよいオリンピックをつくっていくために、日本スポーツ界も積極的にかかわっていく。これからのオリンピック運動の先頭に立っていく。そのための国際性である。近い将来、日本からIOC会長を出すのだというくらいの意気込みを、日本のスポーツ界は持ってほしい。

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