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vol.695-1(2016年11月10日発行)

佐藤次郎 /スポーツライター

「五輪の風景」−42
  どんな夢を語るのか

 札幌市の2026年冬季オリンピック・パラリンピック招致が本格的に動き出した。今後の展開がどうなっていくか、まだ見通しはつかないが、いずれにしろ、思い切った決断には違いない。この時期、この段階で、どのような計画、どのような方向性を打ち出していくのか。期待と懸念が相半ばする中で、だが大いに注目に値する試みと言っておこう。
 札幌市はこの8日、JOCに対して開催提案書を提出した。1972年以来、二度目となる冬季五輪開催に向けて、いよいよ招致活動を本格化させたというわけだ。提案を受けたJOCはやや慎重な姿勢のようだが、そこに新たなオリンピック像につながるようなアイディアが出てくるのなら、この挑戦には世界から注目が集まることにもなるだろう。
 オリンピックがいま、ひとつの曲がり角に差しかかっているとは、この欄で何度か述べたことだ。経費の際限ない増大によって開催に背を向ける有力都市が増えているのが、その行き詰まりを端的に示している。2022年の冬季大会招致では、住民の支持が得られないとして欧州の有力候補が次々に招致を取りやめ、結局はアジア二都市の争いとなって、最終的には2008年に夏季大会を開いたばかりの北京がすぐまた冬季も開くという、かなり変則的な形となった。そうした中で、あえて冬季大会の招致活動に踏み出したというところに、まずは驚きがある。
 一方、日本はといえば2020年を間近に控えている。半世紀ぶりの夏季大会開催準備に総力を挙げている最中なのだ。しかも2026年大会の開催地決定は、東京大会を目前にした2019年。そういう段階で、果たして招致活動が十分にできるだろうか。また、続けざまの五輪招致を国民がどう受け止めるだろうか。そうした状況を承知で手を挙げたのにも相当のインパクトがある。
 さらに、2018年はピョンチャン、2022年は北京なのだから、札幌は3大会続けてのアジアの冬季大会開催を求める形になる。それもひとつの問題点には違いない。
 というわけで、札幌の招致はいくつもの困難の中で、あえて言えば逆風の中で行われることになる。が、言い方を変えれば、それでもなお一歩を踏み出すだけの意欲がみなぎっているというわけだ。これは興味を持たないわけにはいかない。
 開催計画案の概要を見てみると、基本理念には「将来も永続する大会モデルを世界に発信する」「札幌を世界に誇るウインタースポーツ都市にする」などとあり、また目指す姿としては、「札幌オリンピックの競技施設を活用」「環境にやさしい大会に」などが挙げられている。既存施設を最大限に活用して経費を抑えるという点にまず目がとまるが、まだこの段階では計画の出来栄えをうんぬんするのは早い。ただ、今後、いまのオリンピックが抱えている諸課題にこたえる提案を、少しなりとも具体的に示すことができれば、この時期にあえて手を挙げた意味はあるというものだ。
 さまざまな意味で巨大な存在となったオリンピック。そうなると、いくら弊害が指摘されても、改革へと大きく舵を切るのは難しい。が、そのままでは、内包するゆがみやひずみも拡大するばかりだ。どこかで変革のきっかけをつかまねば、それこそゆるやかながらも衰退へと向かうしかない。その観点からすれば、これから招致を目指す都市が、新たな考え方、新たな方向性を思い切って打ち出していくことこそが、今後のオリンピック運動には必須なのである。
 札幌招致がどう進むかは、現段階ではまったくわからない。まずはJOCや国がどう判断するかという点がある。もし日本として招致に向かうとなっても、そこには前述のような高いハードルが連なっている。札幌自身にも、この計画が具体化した時に、市民の支持をどれだけ得られるかという重要課題がある。
 とはいえ、今回の招致への名乗りには、どこかひきつけられるものがある。大都市ではあるが、一国の首都や最大都市ではない地方の街。が、それだけに、いまの巨大オリンピックに欠けているものを提案できるかもしれない。地方都市ならではの新機軸、これから各国のさまざまな都市も参考にできるような提案が生まれるかもしれない。札幌招致にはそんな夢も抱いてしまう。いまのオリンピックに欠けた新機軸など、そんなに甘いものではないのは百も承知のうえでなお、これからの計画づくりを期待を込めて見守りたい。

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