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vol.698-1(2016年11月24日発行)

佐藤次郎 /スポーツライター

「五輪の風景」−43
  もっと「昔」に目を向けよう

 オリンピックがドラマのテーマになる。日曜夜8時といえば、すぐに思い浮かぶのはNHKの大河ドラマ。発表によると、2019年はそこで、1912年の日本初参加から1964年東京大会までの時代を、「歴史に翻弄されたスポーツマンたちの姿を通して描く『東京&オリンピック』の物語」として取り上げるという。時代ものがほとんどの大河ドラマで近現代をテーマとするのは異例のようだが、どんなものができ上がってくるのか、これはぜひ見てみたい。というのも、日本のスポーツ界は総じて、「昔のこと」に冷淡な傾向があるからだ。
 競技団体も、選手や指導者も、そういえばファンも例外ではない。おしなべて歴史に、つまり先人たちの足跡や発展の経緯などに目を向けようとしないのである。たとえば、競技団体に以前の記録や競技結果、かつての選手のことを問い合わせても、明確な答えが返ってくることはあまりない。もちろんある程度の記録は残っているし、「○○年史」を編纂している団体も多いが、知識や記録の蓄積がきちんとなされているところは少ないように思う。
 競技現場にいる選手や指導者はなおさらだ。高名な大先輩のことを現役選手や若いコーチが知らないというのは、どの競技でもよく語られるエピソードだが、実際、それは珍しいことではない。その分野でトップクラスにいるような存在なら、いくら昔のことといっても、知識としてわきまえているのが当然と思うのだが、彼らはあっけらかんと「知らない。誰それ?」と言う。
 ファンにしても、スポーツそのもの、競技そのものを愛している人々なら歴史にも関心を示すが、メディアがあおるブームに乗っているだけの向きは、昔のことなど知ろうともしない。そのメディアも現在のスター選手のことしか取り上げないから、そうした傾向はよけいに強まっていく。こうして、年月がたつにつれてどんどん歴史の知識が薄く、やせ細っていくばかりなのがスポーツ界の実情というわけだ。
 1964年の東京オリンピックについてもそうだった。スポーツだけでなく日本全体にとっても実に大きな出来事であり、節目であったのに、最近まではそれがすっかり忘れられつつあったのである。拙著のことで恐縮だが、その15日間をさまざまな競技などから描いた「東京五輪1964」という本を書いたのも、これほど歴史的に重要な出来事を取り上げた本がほとんどないのに気がついたからだ。「50周年なのに協会は何もしようとしない。海外からも、記念行事はどうなっているんだと問い合わせがあるくらいなのに・・・」と当時の選手が嘆く声も聞いていた。たまたま2020年の東京開催が決まって、1964年回顧がいきなりブームにはなったが、あの開催決定がなければ、「忘れ去られようとしていた」状況はそのままだったに違いない。
 競技団体が強化や普及発展、すなわち現在と将来を見据えているのは当然ともいえるだろう。選手や指導者も同じことだ。とはいえ、すべては過去からのひと続きの中にある。現在の土台となっている過去を知らずして、将来を語ることはできない。それに、歴史の中にはいまでもまったく古びていない教訓やヒントがたくさん詰まっているように思える。過去に学ぶことは、そのままいまの自分にプラスとなるはずなのである。
 2020年を控えて、オリンピックを描く大河ドラマは大いに注目を集めるに違いない。スポーツ界にはぜひ、それをきっかけとして、歴史を知り、過去に学ぶ気運を高めてほしい。「昔のこと」も大事にする姿勢を育ててほしい。そうなっていけば、スポーツの世界はもっと豊かなものになる。
 ドラマは1912年のストックホルム大会から始まっていくのだろうか。その大会に日本から初めて出場したのは陸上の2選手。マラソンの父といわれる長距離ランナーの金栗四三はともかく、もう一人の短距離選手、三島彌彦のことはあまり知られていないのではないか。が、この三島も魅力的で興味深い人物なのである。そうした先駆者の姿に思いを馳せ、そこから何かをくみ取っていけば、それもまた2020年に必ず生きるはずだ。

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