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vol.700-1(2016年12月12日発行)
岡 邦行 /ルポライター

原発禍!「フクシマ」ルポ86―医療過疎地

 原発から25キロ圏内に位置する双葉郡広野町の高野病院は、原発事故後も双葉郡で唯一入院患者を受け入れていた。ところが、すでに報じられているように昨年暮れに81歳になる院長が火災で死亡。常勤医が不在となったため、県は「国と県、福島医大が連携し、医師確保に向けた支援を行う」と発表した。当然の施策だが、未だに原発禍の街は深刻な医師、看護師不足で病気ひとつできない、悲惨な状況にある。
 たとえば、昨年2月だった。故郷・南相馬市で69歳の女性が腹痛で救急車を呼んだところ、虫垂炎だとわかった。だが、医師や看護師不足のために搬送する病院が見つからず、たらい回しにされたあげく、破裂して亡くなったのだ。今どき、虫垂炎で亡くなるとは・・・。笑いごとでは済まされない。

 もともと原発禍の街の双葉郡と相馬群の相双地区は、医師や看護師が少ない医療過疎地≠ニいわれてきた。その上、原発事故後は放射能を恐れ、医師・看護職員が避難して離職。医療体制が十分に機能しなくなった。
 原発事故後、県は医療再生のために県外の病院からスタッフを呼び込もうと、前の職場との給与差額の一部を補填する制度を設けた。
 さらに、原発禍の街の医療体制を学ぶバスツアーも企画したが、看護学生や高校生を募集しても参加者は少なく、いずれも解決策には至っていない。
 取材で知り合った、南相馬市の病院に勤務する看護師はこう証言した。
 「震災後は新規の看護師の採用年齢を50歳まで引き上げても、集まらないんです。たとえ採用しても臨床経験が浅い若手のため、私が勤務する病院では230床のうち稼働しているのは150床ほど。他の病院も同じ状況ですね」
 もちろん、肝心の医師も不足している。そのため南相馬市立総合病院の場合は、その打開策として厚労省に直訴。300床以上を擁する総合病院でないと研修医を雇うことはできないが、特例で研修医を急募し、6人を確保した。
 しかし、看護師は皮肉っぽい口調で続けていった。
 「お金のことはいいたくないんですが、半人前の若い研修医の月額基本給は、ベテラン看護師の報酬よりも良く、1年目が66万2500円で、2年目は72万8750円ですよ。注射もろくに打てないくせして、手当を入れれば年収は1000万近くなりますからね。それに研修期間の2年が過ぎると辞めてしまう。中には『除染作業員と放射能汚染』なんていったテーマで博士号を取得したいという研修医もいるんですから。なんか利用されてるみたい・・・」
 それでも医師がいるというだけで、多くの住民は安心しているというのだ。

 3・11から6回目の新年が明けた。
 しかし、心から「明けましておめでとうございます」とはいえないだろう。毎日のように福島沖で地震が発生し、5日にはマグニチュード5以上の地震が2回も起きている。高校時代の友人は、呆れ顔でいった。
 「そのうちドカーンと大地震がきて、また原発が爆発するんじゃないの・・・」
 私の実家から徒歩5分のところには南相馬市立総合病院があり、南相馬消防署もある。3・11以来、サイレンを鳴らして絶え間なく救急車は走っている・・・。

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