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vol.707-1(2017年3月9日発行)

佐藤次郎 /スポーツライター

「五輪の風景」−50
  「WBC」に思うこと

 ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)という大会には、どこか違和感がある。興味深くはあるが、プロ野球人気を盛り上げるにはもっとやるべきことがあるのではないかと思えるし、メディアの取り上げ方にも首をかしげてしまうのだ。オリンピックや他の競技に関しても共通するところがあるように思えるので、この欄でもちょっと触れてみたい。
 野球人気を高めるためにこれを役立てたいという関係者の思いはよくわかる。プロ野球再興が叫ばれて久しい。こうした国際大会、日本代表チームの活躍の場は以前にはなかった。それは確かにひとつの刺激剤にはなり得る。
 ただ、プロ野球の存在感を再び高めていくためには、やはり根本的なところを再構築していくしかないだろう。すなわち、セ・パ両リーグのペナントレースやポストシーズンゲームの充実、フレッシュなスターの育成、人々を球場へ呼ぶための工夫や努力である。当たり前ではあるが、いずれにしろ、そこに尽きるのだ。近年、プロ野球人気が少しずつ戻ってきているように思えるのは、そうした地道な努力が実を結びつつある結果のように見える。野球が、サッカーのように世界のすべてに広がるワールドスポーツでない以上、国際試合や代表チームの戦いはさほどのビッグマッチにはなり得ない。「侍ジャパン」を再興への切り札のごとく扱うのには、いささか上滑りの観がある。
 それに、WBCが真の実力を反映する勝負の場でないのは、熱心なファンなら誰もが知っていることだ。それぞれのリーグが開幕する直前の、最も大事な調整の時期。トッププレーヤーが100パーセントのコンディションでプレーできる時ではない。投手の球数・登板間隔の制限が設けられているのが、そのことを如実に示している。WBCについては、しばしば「世界一」の言葉が使われるが、どんな意味においても、これを「世界一決定戦」などと言うことはできない。意欲満々で出場する選手も少なくないだろうし、それなりに面白い試合もあるが、真のチャンピオンシップとはいえない。それを、あたかも球界挙げてのビッグイベントのように扱うのは、どう考えてもおかしいのではないか。
 メディアの伝え方にも疑問を感じないわけにはいかない。球界とともに盛り上げていこうという意図もあるだろうが、それにしても、ものごとを客観的に伝えていくべきメディアが、これに「世界一」の表現を安易に使っていいのか。そんな大会でないのは誰もが知っているのだ。メディアがなすべきは、こうした大会がどうすればより質の高い方向へ向かっていくのか、球界のために考えるべきは何かの論を展開していくことで、ただもてはやしていればいいということではないはずだ。
 こうした傾向は、オリンピックに関係する他の競技にも共通するところが多いように思う。
 どの競技でも、日本代表を前面に押し出し、それによって人気や注目度を高めようとしている時代だ。「○○ジャパン」という名称の氾濫がそのことを示している。それには一定の効果はあるだろう。が、これまでオリンピックのたびに、いわゆるマイナー競技の日本代表チームが一時的に注目を集めたものの、それが長続きせず、後々につながらなかった例をいくつも見てきた。関係者の努力は認めたいが、代表チームという、競技のごく一部を突破口として全体に波及させようという方法にはどうしても無理があるのだ。やはり、競技そのものの規模拡大やレベルの向上をこつこつと進めていくしか道はない。日本のスポーツは、どの面でも、もっと地道にものごとを進めていくべきではないか。WBCに象徴されるように、すべてが上滑りしているように思えるのだが、どうだろうか。
 メディアも考えねばならない。先に触れたように「○○ジャパン」と銘打って、それぞれの日本代表をもてはやすのが近年の流れなのだが、それは競技それぞれの本質や魅力を伝える役には立っていない。一時的なブームをつくり出しても、スポーツの真髄、真の面白さを伝えるものにはなっていない。
 WBCをめぐる一連の状況を見ていると、どうも日本のスポーツ界はちょっとずれた方向にばかり進みがちなように思える。メディアともども、その有様を冷静に振り返ってほしいと切に思うこのごろだ。

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