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vol.723-1(2017年8月10日発行)

佐藤次郎 /スポーツライター

「五輪の風景」−62
 「変えられない」ことはないはずだ

 ひとたび枠組みが決まってしまうと、それを変えるのはひどく難しいのがいまの世の中だ。枠組みの規模が大きければ大きいほどその傾向は強まり、同時に、変えられるわけがないという思い込みも生まれる。そうなると、いくら不都合があろうと、問題が起きようと、状況はそのままということになりかねない。
 が、それでいいのだろうか。どんなことにせよ、不都合が出てくれば、もう一度土台から考え直してもいいのではないのか。
 オリンピックについても、そうすべきことは少なくない。たとえば、いつもこの欄で指摘しているように、オリンピック大会は巨大で豪華で華やかなものでなければならないという思い込みがあった。カネをかけなければオリンピックはできないという思い込みもあった。大国の大都市でなければ開けないという思い込みもあった。その結果、どうなったかといえば、膨れ上がる一方の負担を嫌って開催の意向を引っ込める都市が相次ぎ、オリンピックの危機が叫ばれるほどの状況になったしまったではないか。IOCもあわてて方針変更を打ち出し、なるべくカネのかからない大会へと舵を切りつつある。必死に開催都市を確保しようとしている。いまのオリンピックの形を変えられるわけはないという思考停止が、そこまでの事態を招いてしまったのである。
 そこで、これもぜひ、あらためて考えたい。大会の開催時期のことだ。
 ここのところ、夏季大会は7月から8月にかけて開かれることとなっている。近年の大会は南半球のシドニーを除いてみな同時期に行われており、2020年東京大会も7月24日から8月9日の予定となっている。となると、いくら決まっているとはいえ、考えないわけにはいかない。それぞれの土地柄を考慮せず、一律に真夏の開催とするのがいかに不合理かは、猛暑への不安がその2020年大会に向けて噴出していることが如実に示しているではないか。
 あまり気温が上がらなければ、あるいは空気が乾いている地域であれば、さほど問題ではない。が、高温多湿の街で開かれるとなれば、真夏の酷暑が選手にとっても観客にとっても過酷なものとなるのは言うまでもない。年々、猛暑日が増えている真夏の東京。深刻な懸念が繰り返し語られているように、いくらみごとな大会準備・運営が行われようと、暑さがすべてを台なしにしてしまうかもしれないのだ。
 この時期に開く主な理由が、欧米の人気プロスポーツのシーズンとの兼ね合いにあるとはよく指摘されている。確かに、多くの有力団体や企業が関係し、そこで巨額のカネが動いている以上、この日程が動かしにくいだろうというのは容易に想像できる。ほとんどの関係者が、夏季大会の日程変更は絶対に不可能だと判断しているに違いない。
 ただ、果たしてそれでいいのだろうか。オリンピックは世界のスポーツの中心である。現実はともかく、本来は崇高な理念、理想を持つ特別な存在でもある。それが酷暑によって台なしになっていいわけがない。人気プロスポーツとの兼ね合いによって枠組みが決まっているからといって、暑さが大会に深刻な影響を与える状況をそのままにしておいていいはずがない。
 オリンピックは本来、世界のさまざまな場所で開かれるべきものだ。アフリカ、アラブ諸国、アジアの多くなど、まだ一度も大会を開いたことのない地域はたくさんある。幅広い開催を目指していくなら、暑さが問題になる場合も増えるだろう。その場合は、日程をもっと柔軟に動かす形にしなければならない。そうでなければ、開催希望の都市が増えることはないだろうし、気候に恵まれた先進国の大都市にますます偏ることにもなりかねない。3年後に迫った東京は、あらゆる暑さ対策をとるほかはないが、将来を考えれば、ここはあらためて根本の枠組みを再考し始める時ではないか。
 「絶対に変えられない」「動かせるわけがない」との思い込みを、すべてのスポーツ関係者はいったん捨てるべきだ。IOCは、各プロスポーツ側とあらためて交渉してみるべきだし、プロ側もそれにこたえて対応を検討する義務がある。オリンピックがよりよい形になるのは、スポーツ界全体にとっても大事なことではないか。けっして四年に一回ではない。真夏の開催が望ましくない街での開催が決まった場合だけのことである。となれば、何年かに一度、あるいは十何年、二十何年に一度、それぞれが知恵を出し合い、譲歩し合うことは、けっして不可能ではないと思う。

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