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vol.734-1(2017年11月3日発行)

佐藤次郎 /スポーツライター

「五輪の風景」−67
 メダルは成功のカギではない

   2020年東京オリンピック・パラリンピックをいかにして成功に導くか、というと、決まって強調されるのが日本選手の活躍、すなわちメダル獲得である。日本勢がメダルをたくさん取れば、それだけ国中が盛り上がって、すなわち成功と評価されるというわけだ。
 これは日本だけのことではない。どこの国でも自国選手の活躍は必須とされていて、開催へ向けては国を挙げての選手強化が行われる。そこで、開幕が近づくと、どこの国でも「メダル〇〇個獲得!」などと勇ましい目標が掲げられるというわけだ。
 だが、開催国がメダルラッシュに沸けば、それで大会成功と言えるのだろうか。もちろん、そうなれば確かに盛り上がりはするだろうが、自国選手の活躍で国中が沸き上がったとしても、それがオリンピック運動の発展や振興に大きく寄与することになるのだろうか。原点に帰って冷静に考えてみれば、それがイコールでないのは自明のはずだ。
 それに、国の力によって一部のトップ選手だけを強化するのが望ましいこととは到底言えない。それではスポーツ全体の発展にもつながりにくいし、メダルが取りやすいからといって一部の競技だけを重点的に強化するのであれば、なおさらのことだ。それもあって、「自国のメダルラッシュが大会成功のカギ」などという主張には違和感が募る。
 では、「本当の」成功はどのようにしてもたらされるのだろうか。そのために必要なのは何だろうか。ここでは三点ほど挙げてみたい。
 まず何よりも大事なのは、これからのオリンピック開催、またはその土台となるオリンピック運動に役立つことをなんらかの形で打ち出せるかどうか、ではないか。たとえひとつだけでもいいのだ。環境面でもいいし、経費節減策でもいいし、ムダのない合理的運営でもいいし、これまでは参加しにくかった人々を招き寄せる方策でもいい。曲がり角にあってさまざまな課題にあえぐオリンピックのこれからに一石を投じることができれば、あるべき今後の方向性を少しでも示すことができれば、その大会は成功と言えるだろう。不透明な先行きに一筋の光を投げかけられるかどうか。そこは現在のオリンピック運動にとってきわめて大きな要素であり、それを形にすることができれば、その大会は「成功」の評価に値するのである。
 次に挙げておきたいのは、世界中からやって来るさまざまな立場の人々をどう迎え入れるか、だ。選手についていえば、競技しやすい環境こそが何よりのもてなしとなる。観客や関係者であれば、慣れない文化や慣習の中でどれだけ気分よく過ごせるかが大事だろう。豪華な接待や過剰な親切などはいらない。質素であっても、大げさでなくてもいい。来日した人々それぞれがそれぞれの立場で、「温かく迎えられた」と感じるようなら、大会の評価は「成功」となるはずだ。もちろんそのためには、大会関係者だけでなく、ホストである国民・市民一人一人の理解が欠かせない。
 もうひとつ挙げておこう。「クリーンでフェアな大会」を強くアピールしていけば、それも成功の評価につながると思う。
 いまスポーツ界を根底から揺るがしているドーピング問題。今後の状況によっては、致命的なダメージにならないとも限らない。その点、日本はスポーツが盛んであっても薬物には最も縁遠い国のひとつだ。オリンピックの舞台でクリーン・スポーツの大切さを徹底的にアピールしていけば、世界に強い印象を与えることができる。
 また、不正や暴力や差別をなくしていくためのフェアネスも世界のスポーツ界が求めているところだ。その点も強く打ち出せれば、国際的な共感を得ることができるに違いない。自国選手にかたよらない、公平な応援を繰り広げれば、さらに好感度は高まる。「クリーンでフェアな大会」のイメージを世界中に発信できれば、この点でも「成功した大会」とみなされるだろう。
 こうしたことをなし遂げたうえで、さらに自国選手の活躍があれば言うことはないのである。ただ、メダル獲得で大会成功をうんぬんするような考え方は、あまりに本質とかけ離れていると言わねばならない。オリンピックは開催国のものではなく、世界すべての国にとっての財産なのだ。メダル騒ぎだけがオリンピックであるかのように考えるのは、いいかげんやめにしたい。それは大会成功をはかる尺度ではない。IOCも国際スポーツ界も、メディアも、そしてファンも、そのことをあらためて銘記すべきだ。

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