あれは原発なのだろうか―。
この7月初旬、私はイギリスに出向いた。パラリンピック発祥の地、ロンドン郊外のヒースロー空港からタクシーに乗れば1時間ほどで行ける町、エイルズベリーにあるストーク・マンデビル病院を取材するためだ。ちょうど70年前の1948年7月28日、ロンドンオリンピック開会式と同じ日に、ストーク・マンデビル病院のユダヤ系医師ルートヴィヒ・グットマンが「手術よりもスポーツを」を提唱し、車いすに乗る脊髄損傷者を集めてストーク・マンデビル競技大会を開催した。それが現在のパラリンピックの前身となっている。
ともあれ、エイルズベリーに3日滞在して取材。その間、私は日本人のSさんにお世話になり、自宅に招待されたときはなんと〝天のつぶ〟をご馳走になった。日本を離れ、イギリス在住46年のSさんは柔和な顔を見せつつ言った。
「この福島米の天のつぶは、昨年からロンドンのスーパーマーケットで買えるようになったの。いっぱい食べ、いい取材をしてね・・・」
その優しい言葉に甘え、私は持参した錦松梅と鮭の昆布巻き、それにみそ汁で一気に平らげた。異国の地で福島米を口にできることに感謝した。Sさん、ありがとう。
エイルズベリーからオックスフォードまでバスで移動して2日間観光。その後は電車でロンドンに行く予定だったが、運悪くオックスフォード駅は工事中のために閉鎖。しょうがないため途中のディドコット駅までバスで行くことにした。そのときだ。私は車窓から原発を見たのだ、はっきりと。
―イギリスに原発があることは知っている。でも、それは海に近い沿岸部にあるはずだ。ディドコットは内陸部に位置している。しかし、あの円筒形の塔はどう見ても原発じゃないか・・・。
そう思いつつディドコット駅に着いた私はバスから降り、急いでカメラのシャッターを切った。
その日の昼前にロンドン入りした私は、40年ぶりにピカデリー・サーカスに行った。そこではなんと来日中のアメリカ大統領トランプに対する抗議デモに遭遇した。その中に「NO nuclear war」と書かれたプラカードを見つけ、心の中で叫んだ。
―核戦争反対! 原発反対! フクシマ返せ!
こうして帰国した私は、久しぶりにカメラマンの樋口健二さんに連絡した。ディドコットで撮った写真について説明し、2日後に自宅にお邪魔することになった。樋口さんはいち早く原発に着目し、41年前の1977年に世界で初めて原子炉内で働く原発労働者を撮影している。その2年後の79年秋に私は原発取材でお世話になっている。
私の写真を見て樋口さんは言った。
「写真を見る限り原発で、型はアメリカのスリーマイル島の原発と同じだね。ただし、近くに大きな川や海がなければ原発はつくれない。詳しく知りたければ原子力資料情報室に連絡すればいい。私の紹介だと言えば教えてくれるよ・・・」
翌日、原子力資料情報室に連絡。メールに写真を添付して送ると、すぐに返信のメールが届いた。
―これはDidcot発電所といって、火力発電所です。ガス発電所と、廃炉になった石炭・石油火力発電所があります。日本ではつけないのですが、海外では原発や火力発電所には冷却塔をつけることがよくあります・・・。
私は納得した。あれは幻の原発で火力発電所だった・・・。
イギリスでは、1957年10月にウィンズケール原子炉で史上最悪の火災事故を起こしている。しかし、その教訓は生かされていない。現在、ウソまみれの安倍政権のトップセールスが功を奏したのだろう、日立製作所がイギリス中部に原発を新設するニュースが伝わっている。権力者たちにとって、フクシマのことはまるでどこ吹く風だと思っているようだ。
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