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オリンピックはテレビあってのものだ。大会を見るたびに、つくづくそう思う。テレビ放映のために競技のルールが変えられたり、競技の時間帯が左右されたりということがしばしば起きるが、その一方では、放映技術の著しい進化により、テレビでなければ見られない映像を居ながらにして楽しむことができるようにもなっている。言うまでもないが、テレビなしでは今日のオリンピックは存在し得なかっただろう。ただし、だからといって、いまのテレビがオリンピックの魅力を、その本質を十分に伝えているかというと、もちろんそうではない。
平昌冬季大会でも相変わらずだった。自国の選手ばかりを取り上げるのは日本に限らず、どの国でもそうだろうし、またそれが当然なのではあるが、それにしても、明けても暮れても日本のスター選手ばかりが画面に登場するのにはいささかうんざりする。冬季であれ夏季であれ、大会のたびごとに感じることだが、オリンピックとは本来、もっと幅広く、もっと多彩なものではないのか。
平昌で象徴的だったのは、フィギュアスケート男子をめぐるフィーバーぶりだった。羽生選手の連覇が素晴らしいのはもちろんだが、とはいえ、テレビがそのことばかりを連日繰り返し続けたのには違和感を覚えずにはいられなかった。なにしろ、当日も、翌日も、翌々日も、またその次の日も、といった具合に、羽生選手をたたえる番組が、同じような映像、同じようなコメントによって延々と続いたのである。種目の少ない冬季大会という事情もあったろうが、あれほど同じことを繰り返されれば、見る方も「またか」となってしまう。「世の中には、ほかに伝えるべきことはないのか」と首をかしげた視聴者も少なくなかったのではないか。
いつも言うように、オリンピックの魅力はその多彩さ、多様さにある。さまざまな競技があり、さまざまな選手がいて、さまざまな出来事やシーンが生まれるのである。日本勢が活躍できなくとも、じっくり見ればその面白さのとりこになってしまうような競技・種目も少なくない。冬季大会でいえば、ボブスレーやリュージュといったソリ競技、クロスカントリースキーなどが思い浮かぶ。こうした、あまりなじみのない競技でも、テレビでは余すところなく、その魅力を目の当たりにできるし、日本選手の活躍がなくても十分に楽しむことができるのだ。
以前に比べれば、そうした種目の放映も増えてきているが、まだ十分とはいえない。とっくに終わっている日本勢のダイジェストを何度も繰り返して流すくらいなら、それらの放映、できれば生中継などをもっと増やしてもらいたいと思う。熱心なスポーツファンであれば、たとえ日本選手が活躍しなくとも、そこにオリンピックならではの面白さをちゃんと見出すはずだ。
自国のスターばかりをもてはやすのではなく、その多様さをできる限り伝えていくことこそが、テレビをはじめとするメディアの役割なのである。限られた選手の活躍だけを取り上げるのでは、オリンピックの魅力をほんの一部しか伝えないことにもなる。自国中心の放送や報道になるのは当たり前としても、オリンピックはもっと幅広く、奥深いものなのだという思いだけは、メディアに欠かせない意識として、どこかに持っていてもらいたい。
こうした状況はいまの社会全体の風潮を反映しているに違いない。アイドル的な存在や、際立ったキャラクターを持つ人物が登場すると、そこにすべてのメディアが群がり、そればかりを集中して取り上げるという傾向は、オリンピックやスポーツに限らず、どの世界でも共通することだ。社会全般がいわば「芸能化」しているようにも思える。そうした風潮は、メディアのあり方にしろ、それをそのまま受け入れてしまう側の意識にしろ、あまりいいとは言えまい。
メディアはスターやアイドルの登場を待ち望み、視聴者や読者など受け手の側もそれを歓迎する。ある意味では自然なことではあるが、それだけでは寂しいような気もする。オリンピックであれ何であれ、その魅力はひとつに限られたことではないからだ。これだけ「多様性」が叫ばれている中なのだから、オリンピックを伝えるという面でも、もっともっと「多様さ」が重視されるようになってほしい。
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「五輪の風景」−７７
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