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vol.762-1(2018年9月6日発行)

佐藤次郎 /スポーツライター

「五輪の風景」−90
 これがトップアスリートなのか

   何ともお粗末。それしか言いようがない。アジア大会バスケットボール男子の日本代表選手4人がジャカルタで買春行為をし、代表チームから追放された出来事は、選び抜かれたトップアスリートにもこれほどレベルの低い人間がいることを白日のもとにさらした。スポーツ界のみならず、ファンにとっても失望感は深いのではないか。
 こうした不祥事が起きると、「スポーツ選手に過度の高潔性を求めるのはおかしい」「聖人君子である必要はない」などの論が必ず出てくる。今回も同様で、過剰に批判すべきでないという声がさっそく上がった。が、これらの意見はいささかピントが外れている。心あるスポーツ人やファンたちはそんなことを言いたいのではない。問題は、スポーツ選手として競技に向き合う意識、姿勢にある。技を深くきわめ、多くの選手のあこがれ、目標ともなっている立場なのに、これほどいいかげんな意識、無神経な態度で競技に取り組んでいるということが情けないのである。それは厳しく批判されて当然だろう。
 日本のバスケットボールにとって、アジア大会は最大の目標のひとつとなっている。その戦いに臨む代表選手ともなれば、誰もが細心の注意を払って最高の体調に仕上げようと思うはずだ。にもかかわらず、大会が始まってまだ間もないというのに、外へ食事に出た。慣れない外国で行き当たりばったりに食事をとれば、どんなに鍛えていようと体調を崩す可能性は高い。さらに、売春などが行われている怪しげな地域に足を踏み入れれば、いろいろなトラブルに巻き込まれる危険もある。なのに、平気で街に出て遊び回った。信じられない行動と言わねばならない。
 しかも、各国からやって来る代表選手はその街で注目される存在なのである。公式ウェアのシャツを着ていればなおのこと目立つ。常に周りから見られているのだから、おかしな行動をとれば、たちまち噂にもなるだろう。にもかかわらず歓楽街をうろつき、違法行為である買春をした。常識というものが少しなりともあれば、そんなことをしようと思うはずもない。彼らは、トップアスリートとして、プロの選手として、また社会人として誰もが持っているはずの規範や常識を、まったくわきまえていなかったのである。レベルが低いとはそのことだ。
 スポーツ選手にもいろいろな人物がいる。超一流選手の中でも、いささか常軌を逸した態度や周囲の反感を買う言動をしばしば見かける。とはいえ、周囲の眉をひそめさせるような人物であっても、こと自らの競技に対しては常に真摯に向き合うのがトップアスリートという立場にある面々だった。ところが、どうやらそれも変わりつつあるのかもしれない。持って生まれた才能でトップの一人になっても、競技に対する真摯さや、頂点にある矜持などはいっこうに持ち合わせていない「一流選手」が増えつつあるのかもしれない。今回、問題を起こした4人がすべて、トップリーグであるBリーグのプレーヤーであるのは、その危惧をまさしく裏づけている。
 トップアスリートの意識の低さ、著しい常識の欠如。もしかしたら、オリンピアンも例外ではないかもしれない。それはつまり、スポーツの根幹部分そのものが崩れつつあることを示しているのではないだろうか。と考えると、スポーツにかかわる者としては強い不安を感じないわけにはいかない。
 もちろん、これはスポーツに限った問題ではなかろう。この社会全体にそうした状況が生まれ、それがスポーツ界にも投影しているのだろう。ただ、感動や興奮が純粋に味わえる競技スポーツの世界で、それらのかけがえのない魅力を台なしにする醜態を見るのはとりわけ残念なことだ。たとえ社会全体の問題であるとしても、スポーツ界はあらためて人間教育の徹底をはかってほしい。メダル獲得に象徴される勝利第一主義だけでなく、かつては常に語られていた「スポーツマンシップ」の精神を大事にする姿勢を明確に打ち出してほしい。きれいごとに聞こえるかもしれないが、近年のスポーツの世界はそうした「スポーツ本来のこころ」をあまりにもないがしろにしてきたのだ。踏みとどまり、省みるのに遅すぎることはない。
 パワハラなど、組織の構造的な問題が次々と指摘されるスポーツ界。ただ、そうした中で今回の買春騒動を個人的な問題として片づけてしまってはいけない。これもまた、ある意味で構造的な問題なのである。今回の出来事で損なわれ、失墜したものはけっして小さくない。

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