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vol.767-1(2018年11月1日発行)

佐藤次郎 /スポーツライター

「五輪の風景」−94
 ボランティアの力、存分に引き出すには

   東京2020のボランティアをめぐる論争が注目を集めている。オリンピックに直接かかわることができ、多くの人々と知り合えるチャンスでもあると従来通りに前向きにとらえる人々の一方で、「ブラックボランティア」「やりがい搾取」との厳しい指摘もあるのだ。大会ボランティア、都市ボランティアの募集は9月末から始まっており、大会ボランティアには、8万人の予定に対して既に5万人以上の応募があると伝えられているが、いままでは見られなかったこの種の論議が活発に行われるのは、ボランティア文化の発展にとっても、東京オリンピック・パラリンピックにとっても悪いことではないだろう。
 どの分野であれ、ボランティア活動そのものについての批判や疑問は、これまであまり聞かれなかった。個々のボランティアの振る舞いが問題視されても、基本的には、ボランティア活動を推奨する声がほとんどだった。そうした中で真っ向からの批判が出たことには、「もう一度、オリンピックのボランティアについて根本から考えてみる」うえで、それなりの意味がある。ことに、今回の疑問には現在のオリンピックそのものに対する批判も含まれており、全面的に賛同はしないが、一理はあると感じている人々も多かろう。いずれにしろ、何ごとについても、一度立ち止まって見直してみるのは大事なことなのだ。
 もちろん、オリンピック・パラリンピックでボランティアが重要な役割を果たすのは言うまでもない。であればこそ、ブラック論争の当否はともかく、2020を控えて、ボランティアの働き方をあらためて考えてみる必要はあるように思う。
 「実際、現場に行ってみると、あまり仕事がなかった」「何をすればいいのか、よくわからないところがあった」
 オリンピックのボランティア経験者からはこんな言葉を聞くことがある。これまで取材したオリンピック大会でも、忙しく立ち働いている者がいるかと思えば、これといった仕事もなく、所在なげに仲間としゃべってばかりの者も少なくなかったのを覚えている。「自分から仕事を探すぐらいでないと、やりがいのある活動はできない」というのもしばしば聞くことだ。はたから見てあまり効率のいい働き方とは思えず、どれだけ仕事ができるかも個々人の努力や才覚しだい――ということは、すなわち、ボランティアにしっかり動いてもらうための仕組みや、迷わず仕事をこなしていくためのトレーニングなどが十分でないのを表しているのではないか。ボランティアの持つ力を無駄なく発揮してもらうための、そもそものシステムに問題があるのではないか。
 実際にそれぞれの大会でどのようなボランティア活用体制が組まれていたのかはわからない。が、ボランティアの存在が称賛される傾向が強まる一方で、あまり仕事がなかったという声が聞こえてきたり、待遇や扱いについての不満がこぼれてきたりというのが絶えないのは、やはり、体制やシステムにいささかなりとも問題や不足があったからのように思える。「大会の成功はボランティアの活躍にかかっている」「ボランティアは大会の顔」とはいわれるが、ボランティアの力を存分に生かすという最も肝心な部分には、まだまだ工夫が必要だと思われるのだが、どうだろうか。建前やきれいな言葉だけでは、数万人にも及ぶボランティアをうまく動かすことはできないのだ。
 東京2020のボランティア募集はこの12月まで行われる。おそらくは募集人員を大きく上回る応募があるだろう。それだけ、オリンピック・パラリンピックのボランティアに対する関心は高まってきているのだ。ボランティアの活躍はいまや、オリンピック文化の一端を形づくる大事な要素のひとつともなっている。だからこそ、その力を生かし切る具体的、合理的なシステムづくりをしっかり構築してもらいたい。事前のトレーニングにも力を入れてほしい。ボランティアの誰もが効率よく役割をまっとうできる形が実現できれば、それは東京2020の大きな功績のひとつとなる。
 最後につけ加えておきたい。出場選手はもちろん、見る側にも障害のある人々が多いであろうパラリンピックでは、ボランティアが果たすべき役割がより幅広く、重要になると思われる。ボランティア志望者には、オリンピックだけでなく、ぜひパラリンピックにも目を向けてほしい。注目度や人気はオリンピックの方だろうが、ボランティアのやりがいという面では、パラリンピックもまったくひけをとらないはずだ。

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