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vol.770-1(2018年12月12日発行)

佐藤次郎 /スポーツライター

「五輪の風景」−97
 古い体質を変えるには・・・

   国際ボクシング協会をめぐる一連の問題を見ていて感じるのは、競技団体が抱える負の体質は洋の東西を問わず、どこも同じということだ。競技団体が競技と選手のためにあるのは、いまさら言うまでもない。なのに、「競技のため」「選手のため」という第一義を放っておいて、組織としての論理を優先させたり、一部幹部が名誉欲や保身、時には利権のために動いたりするのが目立つのはいったいどうしたことだろう。
 国際ボクシング協会に対しては、IOCが、ガバナンスや倫理、財政面での「重大な懸念」を表明しており、2020年東京オリンピックの予選実施やチケット販売などを一時的に凍結する処分を下している。最大の問題は、現会長が犯罪に関与していると指摘されている点。オリンピックからの除外も検討されてきている。IOC側が「選手を守る」と言明していることから、東京大会からの除外はなんとか避けられる見通しのようだが、それにしたところで、オリンピックスポーツとしてのボクシングが窮地に陥っている状況に変わりはない。
 IOCは調査委員会を設置して協会への徹底調査を行い、その結果によって来年6月に最終処分を行う。処分に関しては、協会に対する国際競技団体としての承認取り消しも含めて検討が行われるとされており、ボクシング界の激震はしばらくおさまりそうにもない。国際競技団体をめぐる、かつてないトラブルとして、この前代未聞の出来事はまだまだ波紋を広げていくだろう。
 それにしても、一連の問題に対する国際ボクシング協会の対応には首をかしげざるを得ない。IOCが再三にわたって警告してきたにもかかわらず、米財務省が犯罪に関与していると指摘している人物をトップに選び、この事態を招いたのである。会長側は犯罪関与について、「虚偽の主張に基づいている」と否定しているが、たとえなんらかの反論があるとしても、公的にこれだけの指摘を受けている以上、問題が深刻化するのは避けられまい。そうなれば、何より大事にしなければならない競技と選手に大きな影響が及ぶのは明らかなのだ。なのに、なぜ会長選出を強行したのか。そんなことをすれば、間近に迫ったオリンピックへの参加に支障が出るのはわかり切ったことではないか。およそ競技団体としての本分を忘れているとしか言いようがない。
 ボクシングといえば、日本ボクシング連盟の前会長をめぐる一連の問題もあった。前会長の辞任で一応の決着はみたものの、競技に与えたマイナスの影響ははかり知れない。2020年を目指す選手たちの足を引っ張った形にもなっている。これもまた、前会長らが競技団体の本分をないがしろにしたからこその例だろう。
 ボクシングだけのことではない。こうした負の体質が他にもひそみ隠れているのは、競技団体のガバナンスの問題が頻繁に指摘されることで明らかだ。それがまた、スポーツ界への国の関与を強める理由ともなっている。自立を守るためにも、各競技団体は古い体質を一掃して、自浄能力を示さなければならない。
 そのために最も有効なのは、組織内の世代交代を着実に進めることではないか。トップをはじめとする主要な幹部たちが長く居座る形になれば、さまざまなゆがみが出てくるのは避けられない。権力のかたよりが生まれ、組織内の空気がよどみ、上下や横の意思疎通も滞りがちになる。新たなアイディアも生まれにくくなる。どんなに有能な人材でも、「余人をもって代えがたい」と言われるような存在であっても、同じ体制があまりに長く続けば、必ずなんらかの弊害が出てくるはずだ。
 もちろん簡単ではないだろう。その座を放すまいとする幹部は多いだろうし、周囲が続投を願うケースもあるかもしれない。が、これまでのさまざまな問題を振り返ってみても、世代交代は必須だ。適切なサイクルでの世代交代が確実に行われるようになれば、権力の集中がなくなり、組織の中の風通しがよくなり、新たな方向性を模索する動きも出てくる。そうなれば、個人の名誉欲や保身のための動きが消え、そのために組織の論理を優先するようなこともなくなってくると思われる。結果、競技と選手のことを第一に考える意識も根づいていくのではないだろうか。
 幹部の座にしがみついて離れない人物には消えてもらおう。どんな場合でも着実に世代交代を進める文化を定着させよう。それが日本の競技団体のセオリーとなれば、組織が変わるだけでなく、スポーツそのもの、競技そのものもプラスの方へと変わっていくはずだ。

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