スポーツネットワーク
topページへ
スポーツバンクへ
オリジナルコラムへ
vol.777-1(2019年8月6日発行)
岡 邦行 /ルポライター

原発禍!「フクシマ」ルポ104

 当然のごとく、福島第1原発事故後に福島県や原発禍にある地元自治体は、強く原発の廃炉を求めていた。
 だが、東電側は8年間もうやむやにしてきた。ようやく東電が取締役会で福島第2原発を含め廃炉にすることを受け入れると表明したのは、この7月末だった。ただし、使用済み核燃料の貯蔵施設を敷地内に新設することを条件に提示し、廃炉には40年を超える期間が必要だと伝えたのだ。これではいかに人のいい福島県人でも納得しないし、原発を推進する安倍政権に対しても不信感を抱くだろう。

 「復興オリ・パラ」を掲げる安倍政権―。
 2012年の師走、第2次安倍政権がスタートした際、安倍首相は「閣僚全員が復興大臣である」と繰り返し、3・11の被災地の復興を重視する姿勢を見せた。ところが、被災者をこれでもか、これでもかと裏切ってきた。
 先ずは13年6月だった。閣僚ではなかったが、自民党政調会長の高市早苗が神戸市での講演会のときだ。「悲惨な爆発事故を起こした福島原発を含め、死亡者が出ている状況ではない」と発言し、物議を醸した。何せ当時は毎月20人以上が原発事故関連死に認定されていたからだ。
 さらに1年後の14年6月。石原伸晃環境大臣は、原発事故の除染を巡る被災地との交渉に関し、「最後は金目でしょ」と記者会見で発言。陳謝したものの辞任しなかった。初めて閣僚が失言して辞任に追い込まれたのは17年4月。今村雅弘復興大臣が、原発事故による自主避難者の帰還について、「本人の責任」と突き放す一方、「(3・11について)まだ東北だからよかった」と発言したのだ。これではいかに強気の首相の安倍でも助けようがなかった。
 そして、極め付きは今年の春だ。何と桜田義孝五輪担当大臣が、3・11の被害に関し、「国道とか交通、東北自動車道も健全に動いていた」と考えられない発言をし、被災地の石巻市を「いしまきし」と何度も言い間違えた。さらに同僚議員の政治資金パーティに出席し、「(政治資金パーティは)復興以上に大事だ」と発言し、引責辞任する始末だった。
 閣僚の相次ぐ失言。これでは安倍首相が「閣僚全員が復興大臣である」と言おうが信じることはできない。お笑い種である。
 その桜田五輪担当大臣が「復興以上に大事」と失言したのは、4月10日だった。この日は原発禍の街・大熊町の一部地域の避難指示が解除され、4日後には大熊町新庁舎開庁式が行われることになっていた。

 福島第1原発から5キロ圏内に位置する大熊町。
 人口1万人の大熊町は、そのほとんどが帰還困難区域であり、避難指示が解除された大川原地区の人口は3・5パーセントの350人ほど。役場が実施した町民アンケートによると、将来を含めて故郷・大熊町に戻りたいと考えている住民は14パーセント、1400人である。早い話が、放射能で汚染された故郷にはもう戻れない、と思っている住民は8000人以上。今でも多くの住民は会津若松市や郡山市、いわき市などで避難生活を送っている。
 2年前の1月。私は会津若松市の大熊町役場会津若松出張所を訪ねたことがある。掲示板に貼り出された1枚の便箋を見つけた。職員によれば町長が書いたものだと言う。
 《☆ハインリッヒの法則―1つの重大な事故の裏には、29の軽微な事故があり、さらにその裏には300の事故寸前の危険な状態がある》
 そう書かれていた。

筆者プロフィール
岡氏バックナンバー

SAバックナンバーリスト
ページトップへ
          
無料購読お申し込み

advantage
adavan登録はこちら
メール配信先の変更
(登録アドレスを明記)
ご意見・ご要望

Copyright (C) 2004 Sports Design Institute All Right Reserved
本サイトに掲載の記事・写真・イラストレーションの無断転載を禁じます。  →ご利用条件