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vol.786-1(2020年6月3日発行)

桂川 保彦/元帝京平成大学教授

スポーツクラブ経営は危機的状況下で生き残れるか
 〜スイミングクラブ産業の出現と成長および現状について〜
 

   前稿で、スイミングクラブ産業の現状を概略紹介した。64年東京五輪の惨敗から水泳ニッポン復興を目指し、当時、圧倒的な強さを有していた米国を、モデルとしてスタートした日本のクラブ組織は、水泳の普及と選手育成強化を掲げ、70〜90年代にかけ二大ミッションの達成に注力した結果、右肩上がりの成長を遂げた。
 成長の原動力は、スポーツ産業の拡がりが政策として掲げられる30年以上前から、水泳ニッポン復活に情熱をもって取り組んだ、先達の高い志であった。こうした背景を辿ると、民間スイミングクラブは、学校体育と企業に依存していた、我が国のスポーツ振興の状況下に於いて、スポーツの産業化に取り組んだ先駆者として、評価されるべきであろう。
 ところが、90年代末期、市場の成長に翳りが見られるようになり、更にピークアウトが来て、以降は下降傾向にある。このような状況下、業界は少子高齢化社会進展を読み取り、競技目的と並行して、成人の美容・健康増進のためのプログラム開発に取り組み、新たな客層の獲得に成功している。顕著な例として、フィットネスプログラムやマスターズ水泳普及の取り組みである。
 例えば、普及を促進するために専門のプログラムを設け、会員獲得を図ると共に、新たに全国組織の日本マスターズスイミング協会を設立した。そして、ブロック大会・全国大会を主催し、標準記録をクリアして、大会にエントリーするスイマーは、年々増加して、ここ数年は4000人を超す勢いである。その結果。大会運営面で過密なスケジュールとなるほどの嬉しい盛況を見せている。
このように活況を示すマスターズ水泳だが、誕生に際して、先見の明を持って尽力された、偉大な水泳人たちの存在をあげなければならない。第二次世界大戦前に、世界で活躍された清川正二さん、北村久寿夫さんだ。二人は世界トップクラスのスイマーとして、水泳日本全盛期、五輪や極東選手権、全米選手権などで優勝を重ねたキャリアを有している。しかも、旧制中・高等学校を経て、北村さんは東京帝国大学、清川さんは東京高等商学校(現一橋一大学)を卒業した正真正銘、文武両道の人物だ。清川さんは卒業後、兼松江商勤務(後に総合商社の兼松社長・会長を歴任)の傍ら、日本のスポーツ界のみならず、国際水泳連盟、国際オリンピック委員会において長く要職を担われた国際的にも稀有な人物だ。
一方の北村氏は労働省キャリアとして幅広く活躍され、公労委事務局長、国際労働機関(I L O)日本政府代表部一等書記官なども歴任されたやはり一流の国際人だ。退官後は住友セメント常務、水連常務理事なども勤められた。その後、当時の日本水連の意向も有り、1984年マスターズ水泳協会初代会長に就任されている。
 筆者は1978年クライストチャーチ(ニュージーランド南島)で開催された、第1回世界大会を、故清川正二さん、故北村久寿夫さん、故大崎剛彦さん(ローマ五輪200M平泳銀メダリスト)、故岡田亘さん(毎日スイミング代表)等と現地合流、大会を視察し主催者との交流やレースを観て、大会の盛況ぶりに大いに驚いた。
 因みに岡田さんは、早くからマスターズ水泳に着目し、ハワイ州オアフ島に於いてオアフクラブ、池袋に於いて毎日スイミングを経営する傍ら、マスターズスイミングの普及に活躍されていた。
 この機会から時を経て、1986年東京において第1回F I N Aマスターズ水泳選手権大会が開催され、国内において普及が加速することになった。
 さて、産業としてのスタートは、年間を通じて快適な室内プールと、付帯設備を有料で提供するシステムが完成したということで有り、具体的には、国際競技レベルの向上、幼児から学童の水泳技能習得、成人の健康増進などが事業として成立したと言えるのではないだろうか。こうした成長の過程において、単体としては零細な各クラブは結束をしながら、産業としての基盤強化を図る目的で業界団体として、一般社団法人日本スイミングクラブ協会の設立を実現している。
 そして、業界として各クラブの経営基盤の強化に努力を注ぐと共に、水泳の中央団体である日本水連と連携を深めことで、共存共栄を目指して前進する。このように、水泳関連団体が互いの利害を超越し、連携することで水泳人口の減少に歯止めをかけ、増加に転ずるような方策が打たれたため、効果が少しずつ現れてはいる。具体的には水泳の日イベント開催などである。しかし関係者の努力を評価しつつも、ピークアウトからの脱出を図るために、更なる戦略の展開が求められると考える。次号で具体的な提案を試みる。

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