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vol.787-1(2020年7月27日発行)

桂川 保彦/元帝京平成大学教授

スポーツクラブ経営はコロナ感染が続く中で経営危機から抜け出せるか
 〜スイミングクラブ産業の現状と課題について,P A R T 3〜
 

 新型コロナウイルス感染拡大は、依然として収束の見通しが立たず、社会生活全般、とりわけ経済活動において、大幅なマイナスが生じている。政府による緊急事態宣言に基づく活動自粛は、3ヶ月を超えスポーツクラブ等は休業に追い込まれ、収入源の会費、利用料が消失した事により、キャッシュフローが悪化している。
 こうした状況下で、ようやく緊急事態宣言は段階的に解除され、クラブにおいては万全の感染防止策を講じた上で、営業再開が慎重に進められており、プールには子供たちが元気に泳ぐ姿が戻りつつある。しかしながら、コアユーザーである高齢者は感染リスクが高いとの報道が繰り返されたこともあり、退会者が増加傾向にある。また、水泳シーズンに合わせて開催される幼児や学童対象の短期教室募集は見送られ、効率のよい収入が目減りする事態も起きている。さらに、施設の維持管理、感染防止対策コストが上昇するなどマイナス要因が加わり経営をじりじりと圧迫している。
長年にわたり水泳専門誌の編集長を務めた後、現在は業界経営をテーマに専門誌を主宰する鶴谷氏は、3月以来毎週の様に、全国のスイミングクラブの会員動向を取材したレポートを配信しているが、各クラブが会員減による収入の減少に苦慮し、クラブ存続の瀬戸際に追い込まれていると指摘する。
確かに、多数の会員が毎日利用するスイミングクラブなどスポーツクラブは、いわゆる、三密状態になるリスクがあり、解除も三段階の最後のグループとされた経緯がある。現在は感染拡大にストップがかかり感染者数が低減し、利用者の安全安心が確保される時期を、ひたすら祈る様な気持ちで待ち続ける毎日であろう。
 さて、厳しい経営状態が続く中で、苦境を克服して安定した経営基盤を取り戻すために様々な努力が行われていることも踏まえた上で、いくつかの提案を行いたい。
第一は経営理念の見直しを挙げたい。具体的にはスイミングという身体活動が、成熟化社会において必要不可欠であり優先的に求められることを、社会に向けてより強く訴求することである。
 例えば水泳に関わる団体が合同で、ウイズコロナ時代における身体活動としての水泳を題材にした新聞広告を打つ事により、新たな顧客獲得を図るといった攻めの展開である。
第二は経営理念に基づいて、全世代に亘り健康増進とその維持向上を目指した事業開発と構成(商品化)を、常にリフレッシュしながら提供することである。それには専門性を身に付けたスタッフの配置が当然必要とされる。しかし現状は運動指導能力に優れ、且つ事業開発もできる人材は限られているので、優れた事業開発プランがなかなか生まれないと言った悩みを抱えている。これは、業界の特徴の一つとして指導者の数確保が優先され、経営能力を有するスタッフが軽視されてきた歴史が、底流にあることが事実としてあると聞く。
ウイズコロナ時代においては、優れた経営マインドを併せ持つ指導者が多く現れることを期待したい。
第三は業界団体の組織基盤強化を提言したい。その中核である一般社団法人日本スイミングクラブ協会は先年、創設50周年を迎えたばかりであるが、組織率が低迷気味であり、特に業界トップ企業であるコナミスポーツ、セントラルスポーツ、ルネサンスなどは現在加盟していない。これらに次ぐ準大手も同様である。それ故、協会は中小零細クラブにより構成されていて、組織力、政治力、行動力共に、非加盟の大手・準大手企業に力負けをしている感がある。
 企業規模の大小を超えて、大同団結することにより産業基盤が強固になり社会的存在感が増し、結果としてクラブ経営の安定化が実現するのではないだろうか。
 最後に本題から少々離れるが、プール水は厳しい衛生基準により殺菌が行われているので、各種ウイルスや菌に感染するリスクは比較的低いと言われている。しかし、国が示したガイドラインは多数の人が利用する室内施設であるプールも一括りで扱われており、業界は困惑感を隠さない。ここは、いわゆる接客を伴う飲食施設や、球場、アリーナ、サッカー競技場等の密とは区別されて然るべきであろう。
こうした内容も業界団体が結束して政府・監督官庁に申し入れるなど、働きかけをして事態打開を実現して欲しい。するスポーツの中で常に一、二を競うスイミングは、まだまだ潜在的需要が見込める。統括団体である日本水連を基軸として関連団体が連携を深め、この大波を見事に泳ぎ切りゴールすることを願うものである。

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