「批評性」「論評性」「文化性」の視点からスポーツの核心に迫る―スポーツ・コラム

尾崎和仁

VOL.778-1(8.11)
 東京五輪・自問自答(3)
 なぜ、東京五輪は、猛暑のなかで開催されるのか?


 梅雨があけた7月末から、東京は、連日、猛暑・酷暑に襲われている。東京五輪の観戦チケットがはずれて、クーラーのきいた涼しい部屋でテレビ観戦することになった人は、ほっとしていることだろう。それにしても、なぜ、こんな猛暑のなかで東京五輪は開催されるのか。今さらではあるが、おさらいをしておきたい。

 2013年1月に東京五輪招致委員会がIOC(国際オリンピック委員会)に提出した立候補ファイルを見ると、まずIOCのほうが、「開催期間は、以下の期間内から選択するものとしています:2020年7月15日から8月31日(IOC理事会がその他の日程に合意した場合を除く)」と、条件付きながら期間を限定している。
 それに対する日本の回答は、大会が8月15日の終戦記念日にかかるのを避けて(関係者による)、「7月24日(金曜日)の開会式に続いて、7月25日(土曜日)から8月9日(日曜日)までの16日間で開催」とし、その理由のひとつとして「この時期の天候は晴れる日が多く、且つ温暖であるため、アスリートが最高の状態でパフォーマンスを発揮できる理想的な気候である。」としている。東京五輪に正式に立候補した7年前の東京は、そんな穏やかな気候だったのだろうか。

 ところで、そもそもIOCが7月15日から8月31日に期間を限定しているのはなぜか。
 よく言われるのが、IOCの大スポンサーである米国のテレビ局NBCの意向であり、米国のスポーツ市場への配慮だ。要は、NBA(バスケットボール)の10月から翌年6月、NFL(アメリカンフットボール)の9月から翌年2月、といった人気スポーツのシーズンやビッグゲームと重ならないようにしているということ。
 一方、欧州に目を向けると、8月から翌年の5月までがサッカー・シーズンとなる。それに加えて、夏季五輪の年には、サッカー欧州選手権が6月から7月にかけて開催される。欧州地域の大会だが、今や、サッカーW杯、夏季五輪大会に次ぐ、世界3位と言える大規模なスポーツ・イベントだ。
 オリンピックとはいえ、北米と欧州の市民生活に密着し、巨大なビジネスとなった「スポーツコンテンツ」との競合を避けるために、7月中旬から8月までに限定せざるをえないのだ。

 しかし、IOCも東京の夏が、こんなに暑いとは想像していなかったのではないか。2020年大会の開催地の選考過程でも、「東京の暑さ」が課題となったことはなく、IOC委員の現地(東京)視察の時期も3月だった。しかし、そのIOCは時期の変更の可能性を残しているし、オリンピックではないが、2022年のサッカーW杯カタール大会は、6、7月の暑さを避けるために、11月から12月にかけて開催されることになった。やろうと思えばできたはずだ。
 IOCに忖度して、真夏を「理想的な天気」と言って立候補し、招致決定後は、決まったこととして開催時期の見直しのそぶりもみせず、小手先の対策で乗り切ろうとしてきた組織委員会の罪は重い。

 今年も、あと数週間で暑さがやわらげば、これまでと同じように猛暑のことは忘れられ、いよいよ「がんばれ!ニッポン!」ムードが高まることだろう。すでに、松岡修造氏を団長とした応援団が結成され、「全員団結プロジェクト」が始まろうとしている。
 しかし、むしろ「命を脅かす暑さ」のなかで自らの身を守るには、無理をせず、がんばらないことが一番のような気がする。観客にも、選手にも、ボランティアを含む運営スタッフにも、「たかがオリンピック」という逃げ道をつくっておくべきではないか。例えば、そのひとつとして、「猛暑日(1日の最高気温が35度以上)になった場合には、観戦チケットのキャンセル・払い戻しを認める」といった、観客に無理をさせないための対策をとれないものだろうか。

 1年後には、東京大会は終わっている。猛暑による犠牲者がでないことを願うしかないのが、もどかしい。

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