「批評性」「論評性」「文化性」の視点からスポーツの核心に迫る―スポーツ・コラム

佐藤 次郎/スポーツライター

VOL.766-1(10.18)
 「五輪の風景」-93
 夏季開催こそ考えたい


 札幌市が、2026年冬季大会の招致レースから降りたのはやむを得ないことだったと思う。オリンピック招致に対する市民の期待があまり高まらなかったという以上、さらに活動を続けるのは賢明でない。いまや、地元住民の積極的な支持がなければ、五輪招致など到底できないという時代なのだ。しかも、今回は地震で大きな被害が出るという事態ともなった。撤退以外の選択肢はなかったと言うべきだろう。
 いったん招致活動から外れると、次を狙うのが難しくなるという見方もあったが、そんなことはない。オリンピック招致を多くの有力候補が激しく競い合うような状況は過去のものとなっている。ことに冬季大会では、開催希望地の減少が著しい。IOCは立候補都市の確保に四苦八苦の有様なのだ。そんな状況からして、この撤退が次に影響するとは思えない。
 さて、札幌はいまのところ、その「次」、すなわち2030年大会の招致を目指すとしているが、これは今後、どのような展開になっていくだろうか。
 冬季オリンピックは危機に瀕していると言わねばならない。2022年は、ヨーロッパの有力都市が地元市民の反対で次々に立候補を辞退し、結局は、夏季大会を開いたばかりで、しかも冬季競技にあまり縁のない北京での開催となった。これはかなり違和感のある決定だった。札幌が見送った2026年も同様の経過をたどり、いまのところはカナダのカルガリー、スウェーデンのストックホルムなど3候補が残っているものの、経費の膨張などに対する住民の反発が表に出てくれば状況は変わるかもしれない。オリンピックはもはや歓迎されざる存在ともなりつつあるのだ。
 そうした中での2030年招致である。札幌は果たして、多くの市民の賛同を得ることができるのだろうか。26年は見送ったが、次の招致活動が始まるまでに多くの時間が残されているわけではない。市民や関係団体がある程度納得できるようなプランを打ち出せるかというと、それはいささか疑問だ。
 冬季オリンピックについては、そのあり方についての根本的な再検討が必須のように思われる。もちろんそれはIOCの責任だが、開催を希望する側にも、持続可能な大会像や新たな方向性をそれぞれに考え、打ち出す責務があるだろう。札幌も、本気で開催を目指すのであれば、時間はかかっても、まずはそのことに取り組むべきではないか。

 ところで、ここで札幌にひとつ提案をしたい。夏季大会の開催をぜひ考えてもらいたいのだ。
 そう思う何よりの理由が気候にあるのは言うまでもない。東京2020で強い懸念があるように、7-8月開催が固定化されてしまった夏季大会の一番の敵は暑さだ。近年は以前に比べると気温が高くなっているようだが、それでも札幌なら、スポーツ大会にふさわしい爽やかさを期待できるだろう。競技はもちろん、大会運営や集客にも好影響を与えるはずだ。世界のスポーツ界にも大いに喜ばれるに違いない。
 人口200万の札幌は屈指の大都市といえるが、夏季招致はあくまで全道開催で考えたいところだ。もともと一都市開催が大原則だったオリンピックだが、候補地難からIOCも「アジェンダ2020」である程度の分散開催を認めている。広い北海道とはいえ、道というひとつの自治体の範囲内であれば統一感のある開催が実現できるのではないか。
 中核となる札幌にはいろいろなプロスポーツチームがあり、その分、競技施設も一応そろっている。さらに、鉄道や高速道路でさほど時間をかけずに移動できる主要都市にもそれなりのインフラがあり、利用可能な施設も少なくない。道全体で開くとすれば、札幌だけに過大な負担がかかることもなかろう。いつも言うように、時代に合わせた質素な大会に徹すれば、経費を抑えることも可能だ。
 夢物語に近いことは承知している。ただ、夏季大会が開かれてもおかしくない都市であるのは確かだ。競技に向いた爽やかな気候、スポーツが盛んな土地柄、大都市としての機能、広々と美しい景観――それらがすべてそろっている中で、スーパー大都市で開く昨今の華美な大会とはひと味違ったオリンピックを実現できれば、それは今後の五輪像のひとつの手本ともなり得る。
 2022年には北京が史上初めて夏冬双方の大会を開く都市となる。が、夏冬それぞれの開催にふさわしいという意味では、札幌・北海道の方がずっと上ではなかろうか。すぐに具体化というわけにはいかないだろうが、北海道のこれからのため、また日本のオリンピック運動の発展のために、札幌・北海道での夏季オリンピック開催を考える意味はあるはずだ。


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