「批評性」「論評性」「文化性」の視点からスポーツの核心に迫る―スポーツ・コラム

佐藤 次郎/スポーツライター

VOL.733-1(10.19)
 「五輪の風景」-66
 失望と嫌悪は深い


 「ヌズマン逮捕」のニュースには愕然とするほかなかった。ブラジルオリンピック委員会の会長を長く務めたカルロス・ヌズマン。大会組織委員会会長として昨年のリオデジャネイロオリンピックの表舞台に立った姿はまだ記憶に新しいだけに、そのリオ大会招致をめぐる買収疑惑で司法当局の追及を受けることになったのは衝撃的と言うほかない。そして、多くのスポーツ関係者やファンが何より感じているのは、まだそんなことが行われていたのかという深い失望感であろう。
 今回の逮捕は、IOC委員に対する買収に関与した疑いによるという。捜査は継続中で、実際にどのようなことが行われたのかはまだわからないが、NOCと大会組織委のトップを兼ねる人物に対して強制捜査が行われたとなれば、それなりの証拠固めがなされたのは間違いないだろう。つまり、IOCという組織にはいまもなお、オリンピック招致にからむ不透明なカネの動きが存在するということだ。
 招致にからむ買収となれば、思い出さないわけにはいかない。2002年ソルトレークシティー冬季大会の招致をめぐる大スキャンダルは、オリンピックとIOCを根底から揺さぶった。オリンピック運動の高潔な精神などとは正反対のカネまみれ体質、不正の横行を許す体質がそこにあるのを世界中に知らしめた最悪の出来事だった。多くのIOC委員が追放され、招致のルールも大幅に変えられたのは、地に落ちた信頼をIOCが必死に取り戻そうとしたからだろう。同じようなことをもし繰り返したなら、オリンピックもIOCも立ち直れないという深刻な危機感があったに違いない。
 なのに、またしても買収疑惑が捜査の対象となるに至った。愕然としないわけにはいかない。あの時の危機感はどこへ消えたのか。あれほど手痛いつまずきを経験したのに、どうして再びこんな状況を招くことになってしまったのか。
 もちろん、不正があったとしても、IOCとその周辺のごく一部の人間のことではあろう。とはいえ、一部にせよ、そうした不正体質がそのまま残っていたというのは厳然たる事実と言わねばならない。怪しげなカネの動きに誰も気づかなかったとも思えない。会長をはじめとするIOCの指導陣はいったい何をしていたのか。不正は絶対に許さないとする強い姿勢を示していなかったのではないか。そもそも、抜本的な体質改善をしようという意思にも欠けていたのではないか。
 今回、捜査対象となった件に出てくるキーパーソンの名は、東京招致にからむカネの流れにも関係している。万一、そこも捜査の中で指摘されるようなことがあれば、2020東京のイメージダウンも心配しなければならない。いずれにしろ、こんなことがあれば、オリンピックそのものへの信頼や期待も薄れていく。不正に関係のない多くのスポーツ関係者、またスポーツファンは、繰り返される大失態に深い失望のみならず、強い嫌悪感をも抱いたはずだ。
 いつも指摘しているように、いまのオリンピックのありようはカネが第一義となっていると言わざるを得ない。不正とは関係ないにせよ、ビジネス最優先の姿勢は、さまざまなゆがみを生み、オリンピック本来のあり方をそこなっている。そうした方向性もまた、相変わらず一部に腐敗体質が残っていることと微妙につながっているように思えてならない。
 今後の捜査の進展によっては、オリンピックそのもののイメージが再び地に落ちるかもしれない。ソルトレークシティーの教訓をしっかり生かせなかった報いは大きい。いまIOCや関係機関が迫られているのは、今度こそ、不正を生む体質を根底から変える姿勢を示すことだ。IOCはどうあるべきか、IOC委員はどのような人物でなければならないのかを明確に示し、それにふさわしくない人間は退場させることだ。世界のスポーツ人やファンを納得させられるだけの対応が取れるかどうか。IOC・バッハ会長をはじめとするスポーツ界のリーダーたちの覚悟が、いま問われている。


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