先日、錦織圭が日本人最高位の24位をマークした偉業について書いて以来、「男子テニスについて今度書くのは錦織が四大大会で優勝する時ぐらいだろう」と考えていたのだが、こんなに早くチャンスが巡ってくるとは。
2012年、日本男子プロテニス界はまさに快挙づくしのスタートを切った。錦織を始めとする4人の選手がすべてツアー大会の本戦に駒を進めたのだ。これだけでも恐らく史上初である。
まずはオーストラリア、ブリスベーンオープン。世界26位(1/9現在、以下同じ)の錦織は予選を免除され、117位の伊藤竜馬は予選を勝ち残った。残念ながら2回戦で敗退したものの、両者共に1回戦を突破したのは見事。
目を見張ったのはインド、チェンナイオープンである。共に予選を通過した添田豪、杉田祐一は仲良く1回戦を突破。この時点で、日本人4選手が同時にツアー2回戦進出という、まさに前代未聞の素晴らしい滑り出し。ところが、これだけでは終わらない。この時点で120位の添田は2回戦で36位のドディグ、準々決勝で23位(対戦当時は17位)のバブリンカをともにストレートで下し、自身初のベスト4進出である。準決勝では世界9位のティプサレビッチに敗れはしたが、まさに「一皮むけた」感が強く、今年一気にブレイクする可能性を感じさせた。ランキングの方も先週の120位から99位へ、自身2度目のトップ100入りは見事である。
一方の杉田(208位)も1回戦で68位のロクスを破り、2回戦では台湾のルー(78位)にストレート勝ちしてこれも自身初のツアーベスト8。準々決勝、世界10位のアルマグロに対しても1セット目を先行した後、2セット目も絶えずリード、追いつかれて6-6のタイブレークになったものの、ここでも果敢に攻め、マッチポイントを3回握ったが、すべてしのがれてしまった。最終第3セットも、1-5の絶体絶命から立ち直り、4-5になったゲームでも、アルマグロのマッチポイントを4回防ぎ、アナウンサーをして「本大会間違いなく最高の試合」と言わしめた。その信じられないほどの粘りと闘志溢れるプレーは観客を魅了し、試合終了の瞬間、観客の多くはスタンディングオベーション、アルマグロまでも杉田を讃える拍手を送ったほどである。添田と並び、今年の成長株となるのでは、と思わせる活躍であった。
まさに絶好調の日本男子プロテニス陣であるが、その理由に心あたりがないこともない。4人とも、男子の国別対抗戦、デビスカップ(デ杯)のプレーオフで、昨年9月に日本が27年ぶりにワールドグループ復帰を決めた時の日本代表なのである。以前、このコラムでも書いたが、この時は杉田が大活躍し、エース錦織がダメを押すと言う理想的な展開であった。錦織は7月にあったデ杯のプレーオフ出場決定戦の後、恐らくは連戦による疲労から体調を崩した。一部にはランキングには大きく影響しないデ杯に出て体力を消耗することの功罪を取り沙汰する向きもあったが、本人によれば、デ杯で「日の丸を背負う」ことには大きな意味があったようだ。
昨年のデ杯では仙台出身の杉田が表彰式後のスピーチで東北地方の被災者に言及し、感動を呼んだ。自身も被災者救援の基金「チームジャパンテニス」を立ち上げ、100万円以上の寄付を集めるなど、震災に対する思いは深い。一方の錦織は昨年11月、松岡修造やクルム伊達公子らと「ドリームテニスAriake」というチャリティーイベントに参加したり、世界1位のジョコビッチらと被災者支援のサッカーマッチを行うなど、やはり被災者支援の運動をし、視野が広がったと語っている。さらに添田も、原発事故で苦しむ福島でチャリティクリニックを行っている。
人間というもの、自分以外の誰かのための方がより一層の力を発揮できるというのは良く観察されることである。その「誰か」は家族かも知れないし、被災者かも知れないし、日本人や日の丸かも知れない。この2月には世界ベスト8入りをかけて、前出のドディグのいるクロアチアとデ杯で対戦する。夏に開かれるロンドンオリンピックでも、この4人の活躍が見られることであろう。日の丸を背負って一層の躍進を期待したい。
もちろん、「実力以上」のことは誰にもできないので、最後は本人の努力と実力次第であるのは言うまでもない。しかしながら、「努力」次第で「実力」も上がって行く。文字通り、日本を代表する4人の若手プレーヤーがお互いに良い刺激を受けながら、より広い視野を獲得して大きく成長するのではと予感させる2012年の開幕週であった。
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