1998年のワールドカップ以来、世間がサッカー日本代表に注目の度合を高める中、2006年、日本代表はドイツ大会に3回連続して駒を進めた。筆者は戦後生まれなので実際は知らないが、マスコミによって扇動されたドイツ大会直前の世間の気分は、第2次世界大戦前のナショナリズムの高揚とマスコミの煽りに乗った戦勝気分に似通ったところがあったようだ。ドイツ大会直前まで、決勝進出間違いなしとの根拠のない予想分析に世間は酔いしれたが、現実は1勝すら出来ずに予選敗退となり、世界の壁が高く厚いことを改めて知らされた。 ワールドカップが終わり、醒めた気持ちでJリーグの経営に目を転じると、情報を公開するJリーグの英断のお陰で、日本代表を供給するJリーグの足腰が意外と弱っていることが分ってきた。このままでは、2010年の南アフリカ大会に代表を送ることが困難になるばかりか、Jリーグそのものの存続が危ない。Jリーグは2006年、1993年の発足以来初めて各クラブの財務概要を公表した。 また、Jリーグは1993年以来の財務内容を公表しているので、この2つのデータによってJリーグの将来像が推察できるようになった。 収入の面から見てみると、Jリーグはプロ野球を反面教師として、アメリカプロリーグに倣って、テレビ・マーチャンダイジング(MD)・スポンサーシップ(SP)の権利の現金化をチェアマンに委ねている。仕組みは正当であるものの、残念ながら、この3つの権利の現金化が伸びていない。2007年からスカイパーフェクTV!の参入によって放送権料の微増が見込まれるが、1992年に有料テレビのBスカイBとイングランドプレミアリーグが生んだような衝撃的インパクトをJリーグが享受するとは思えない。むしろ、テレビからの収入は頭打ち状態が続くと予想される。MDとSPからの収入も横ばいが続いていることを勘案すると、各クラブはリーグからの配分増が期待できない環境にある。実際、リーグからの配分が総収入の10%以下のクラブも存在するので、危機感を持ったクラブは自己防衛に走ることになる。 各クラブに残された収入源は、チケット・スタジアム内物品販売・スタジアム内外の看板広告・ユニフォームのSPだが、現実は厳しいものがある。チケット販売は、Jリーグ得意の地域密着型応援で売上を伸ばすことが出来るが、試合数とスタジアムの席数を考慮すると限界が見えてくる。スタジアムでの物品販売と広告看板は、スタジアムがクラブの所有ではないだけに、100%自由にならない。 結局、出資会社が「広告料収入」の名目で出してくれる「補填」に頼らざるをえない。プロ野球の構図とダブってくる。 現状は更に深刻化を増している。すなわち、「補填」を受けるだけで何もせずに、リーグに分配金を増やすように大声を挙げれば良いものを、プロ野球の球団同様、各クラブがホームタウンを中心にクラブ独自のMD展開を図り、看板スペースの販売に力を注ぎ始めたので始末が悪い。クラブが営業に熱心になればなるほど、チェアマンが保有する「テレビ・MD・SP」の売り手独占の販売システムが、足元から崩壊することになるからだ。 支出の面で最大の経費項目は選手年俸だが、クラブのスタッフを含めた人件費が極めて少ない。メーカーであれば、研究開発費や設備費はもちろんのこと、流通・広告宣伝・小売店対策などの経費を負担しなければならないが、Jリーグ含めプロスポーツリーグは、それら経費の負担を必要としていない。 したがって、アメリカのプロリーグは収入の60%以上を選手年俸に充当しているが、Jリーグは20〜30%に止まっている。収入の60%も選手年俸に充てればクラブの赤字が避けられないからだ。
少ない年俸に加え、選手は平均26歳で辞めていく。サッカー少年の「夢」は 何だろうか。 幸い、日本代表の人気にあやかって、サッカー協会の収入が拡大の一途を辿っている。代表選手を供給するJリーグとサッカー協会との間で、代表が出場する試合からの収入を分かち合うシステム作りを行う時期に来ているのではないだろうか。収入の再分配がなければ、世界に挑戦する日本代表を長期にわたって送り続けることは難しいと考えざるをえない。 |