第27回ミズノスポーツライター賞発表(2017年3月6日)
■2016年度 第27回 ミズノスポーツライター賞 受賞作品
スポーツメントール賞はこちらをご覧ください。
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「2016年度 ミズノ スポーツライター賞」受賞者決定
(公財)ミズノスポーツ振興財団では1990年度より「ミズノ スポーツライター賞」を制定し、スポーツに関する報道・評論およびノンフィクション等を対象として、優秀な作品とその著者を顕彰しています。
27回目を迎える本年度は、3月6日(月)、グランドプリンスホテル高輪で2016年度選考委員会を開催し、受賞作品および受賞者を以下の通り決定いたしました。
なお、この「ミズノ スポーツライター賞」の表彰式を4月18日(火)にグランドプリンスホテル新高輪で行います。
■最優秀賞 (トロフィー、副賞100万円)
『スポーツ新考 地域戦略を探る』
山陽新聞社 スポーツ企画取材班(発行:山陽新聞社)
選評:
2016年元旦に掲載を開始し、6月24日まで8部構成で展開した大型企画である。第1
部「この指とまれ」が13回、第2部「輪になろう」が8回、第3部「大空の下で」が10回、
第4部「きょうも元気で」が8回、第5部「ともに進もう」が8回で、それぞれしめくくりと
して有識者などへのインタビューを載せた。その後、提言編として6回、番外編が3回ある。
尚、プロローグとして「熱源」と題した記事が最初に5回掲載された。
この連載は重量感のある大作だが、まず企画としての「建て付け」がしっかりしている点を
評価したい。1〜5部のしめくくりには有識者の意見を示すことで「くぎり」とし、ストーリ
ーを次のテーマに引きずらない工夫がされている。全国的に高まるスポーツ熱を競技力向上だ
けでなく、地域社会に生かすことはできないだろうか、という発想からこの連載は始まる。ス
ポーツチームやイベントを“公共財”“地域資源”として捉える新しい考え方に沿って、「感
動を共有することで生まれる一体感など新しい価値観を考察するとともに、地方都市の課題解
決につながる手だてを掘り下げ、発信する」と連載初回に目的を記しているが、それが十分に
果たされた記事になっていると思う。いずれにしても久方ぶりの新聞部門での力作であり、地
方紙が地域の暮らしを見据えて、じっくりと取り組んだ企画ものとして今後のモデルにもなり
得る作品といえる。
■優秀賞
一投に賭ける 溝口和洋、最後の無頼派アスリート (角川書店単行本)
上原 善広(うえはら よしひろ)(発行:角川書店)
選評:
やり投げで1984年のロサンゼルス五輪、1988年のソウル五輪に出場し、1996年
に34歳で現役を引退したアスリート、溝口和洋。本書は、大阪体育大学で一時期円盤投げを
やっていた著者が、溝口の強烈な個性と競技をとことん極める姿勢に惹かれ、18年にわたる
付かず離れずの付き合いから溝口の評伝を彼自身になりかわって一人称文体で書いたもので
ある。その実験的な方法論といい、やり投げという競技をとりあげたことといい、これまでの
スポーツ・ノンフィクションにはなかったタイプの作品である。
執念と怨念で技術面でも様々な工夫をし、世界で初めての試みを自分のものにしていく溝口。
すべて、コーチは置かず、一人で。トレーニングパートナーや通訳もしてくれるトレーナーは
いたが、コーチの助言を求めず、他人に何を言われようが、自分が納得すればそれを貫き通し
た。あえて自分から壁を作って愚直とも哲学的ともいえる姿勢で競技に取り組む、その姿から、
今はほとんどいないであろう「最後の無頼派アスリート」。究極の「この一投」に賭ける破天
荒な生き方は溝口にしかできないものだった。「溝口はまさに『全身やり投げ選手』だった。
彼が編み出したやり投げのためのテクニックとトレーニングは、そのまま彼自身の存在意義と
哲学にまで昇華されていた」(著者あとがき)ことがよく書き表された、とても面白い読み物
である。
■優秀賞
サッカーと愛国
清 義明(せい よしあき)(発行:イースト・プレス)
選評:
サッカーとナショナリズムの強い親和性に触れ、村と村との闘いから始まったその歴史に注
目し、サッカーが発展した19世紀、故郷から都市に働きに出た労働者たちはサッカーチーム
に故郷の代替物を見出した。共同体としての認識は「私たち」とそれ以外の人々とを分けるも
のとなり、サッカーの試合は敵と味方を分かりやすく見せる仕掛けになった。敵対する他者の
存在は、排外主義や差別主義をたやすく助長させる危うさを秘めている。それでいてサッカー
は、FIFAの理念にも掲げられているように、世界の人々が肌の色や言葉や宗教を超えて一
つになる働きも確かに秘めている。本書はこうしたサッカーにおけるナショナリズムの複雑な
様相を、国内外でのフィールドワークや関係者への取材をもとに現状リポートしながら前景化
し、それとともに欧州サッカーの事例を紹介しながらその後景にあるコスモポリタニズムにも
目配りして読み解こうとするものである。
全体として本書は、スポーツとナショナリズムの関係を多面的にとらえ、その危険性と共に
その可能性にも注目した視野の広いルポルタージュであり、日本の動きと世界の動きを連動さ
せながら論じて説得力がある。著者は各国のサッカー事情に詳しく、自身の取材からも、文献
からもたくさんのことを身につけている。今まで「なんとなく知っていた」サッカーとナショ
ナリズム、民族主義を、ヨーロッパ全体に広く目を向けて解説し日本の事情と対比して見せて
くれた点でも貴重な一冊といえるだろう。
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主催:公益財団法人 ミズノスポーツ振興財団
選考:ミズノ スポーツライター賞選考委員会 [主旨] スポーツが巨大なメディアそのもとなった今日、世界の国々、地域、民族が分け隔てなく、共通のルールで価値を創造し共有できる文化は、スポーツをおいて他に見当たりません。 バンクーバー冬季オリンピック大会、サッカーW杯南アフリカ大会、いずれの舞台でも、肉体のもつ能力の可能性が未来に向かって切り拓かれました。世界の人々の魂を揺さぶる人間的なドラマも現出しました。スポーツはどんな状況にあっても、子どもたち、若者たちが夢をふくらませ、それを叶えられるフィールドとして価値ある存在であることがあらためて確認されたと言えるでしょう。 スポーツをテーマに「書く」ということは、スポーツの世界で繰り広げられる多種多様な事象を、読む人の心にいきいきと甦らせることのできる高度の娯楽性を基盤に置きつつ、客観的な報道性(記録性)と時流に迎合しない批評性を併せ持った文章によって、人々にスポーツの真価を伝えることです。それはスポーツの文化性をより高めるために必須の営みだと言えます。 今年度で21回目を数える「ミズノスポーツライター賞」は、「スポーツの世界を文字で描き伝える」スポーツライターの業績を顕彰するわが国唯一の賞として、その価値と使命がいよいよ大きなものとなってきています。本年も21世紀のスポーツ界とスポーツ文化のさらなる発展に寄与することを目的として、スポーツ報道とスポーツ・ノンフィクションに関する優秀な作品を広く公募いたします。
[対象領域]
【2015年1月1日〜12月31日】に発行・出版・発表されたもので、主として新聞・雑誌・単行本等に掲載された個人もしくはグループで書かれたスポーツ報道、スポーツ評論、スポーツノンフィクション、など。ただし、インターネット上のウエブサイトなどで発表されたもの、社内報や広報誌等一般に販売されていないもの、一般の者が入手不可能な機関誌的なもの、翻訳書や専門学術書・誌、研究紀要等に掲載されたいわゆる学術論文はこの対象からは除く。
[表彰内容]
★最優秀作品 1本 (トロフィー / 賞金100万円) ☆優秀作品 2本 (トロフィー / 賞金 50万円) [選考委員]
委員長 | 岡崎 満義 | 元(株)文藝春秋取締役・「ナンバー」初代編集長 |
委 員 | 上治 丈太郎 | (公財)東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会 参与 |
| 杉山 茂 | スポーツプロデューサー/元NHKスポーツ報道センター長 |
| ヨーコ ゼッタ−ランド | スポーツキャスター |
| 高橋 三千綱 | 芥川賞作家 |
※敬称略・順不動
[ 応募要領 ]
作品の主旨および筆者名(担当記者)あるいは担当班とそのメンバー名、連絡先を記載の上、新聞・雑誌は作品のコピー3セット(A4サイズ/必要に応じて他サイズも可)、書籍は3冊を同封の上、お送り下さい。応募に際しご不明な点がございましたら選考事務局までお問合せ下さい。
●締め切り(消印有効):2016年1月13日(金)
●発表 :2016年3月6日(月)
●表彰式 :2016年4月18日(火)グランドプリンスホテル新高輪(予定)
【お問い合せ先】
「ミズノ スポーツライター賞」選考事務局
〒151-0053 東京都渋谷区代々木2-16-15 代々木フラット401 スポーツデザイン研究所内
TEL:03(3377)4858 / FAX:03(3377)5028
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