第28回ミズノスポーツライター賞
 

第28回ミズノスポーツライター賞発表(2018年3月6日)

2017年度 第28回 ミズノスポーツライター賞 受賞作品
スポーツメントール賞はこちらをご覧ください。

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「2017年度 ミズノ スポーツライター賞」受賞者決定

 公益財団法人ミズノスポーツ振興財団では、1990年度から「ミズノ スポーツライ ター賞」を制定しており、2017年度で28回目になります。この賞は、スポーツに関 する報道・評論およびノンフィクション等を対象として、優秀な作品とその著者を顕彰す るとともに、スポーツ文化の発展とスポーツ界の飛躍を期待し、これからの若手スポーツ ライターの励みになる事を願い制定したものです。
 3月6日(火)、グランドプリンスホテル高輪で選考委員会を開催し、受賞作品および 受賞者を以下の通り決定いたしました。
なお、この「ミズノ スポーツライター賞」の表彰式は、4月24日(火)にグランド プリンスホテル新高輪で行います。

■最優秀賞 (トロフィー、副賞100万円)

 該当作品なし

■優秀賞 (トロフィー、副賞50万円)

 中南米野球はなぜ強いのか――ドミニカ、キュラソー、キューバ、ベネズエラ、MLB、そして日本
中南米野球はなぜ強いのか――ドミニカ、キュラソー、キューバ、ベネズエラ、MLB、そして日本
  中島 大輔(なかじま だいすけ)(発行:亜紀書房)

選評:
 主として野球を取材対象として活動するスポーツライターの作品である。昨シーズン、ベイスターズを日本シリーズにまで導いたラミレス監督をはじめ、プロ野球で活躍するラテンアメリカ出身の選手は多い。著者は学生時代にテレビ番組で広島カープがドミニカに野球アカデミーを開設したことを知り、意外に思ったという。そのとき感じた疑問を解くべく、サッカー取材で親しくしていたドイツ在住のスポーツ・フォトグラファー、龍ファルケル(Ryu Voelkel)と中米・カリブの旅に出る。
 2013年、著者はまず8日間のドミニカ共和国の取材に出かける。ドミニカに限らず中南米の国を訪れる旅行者は、多発する凶悪犯罪に備えて十全の危機管理が要求される。緊張感をもってドミニカに降り立った著者らは、この国では野球が最大の娯楽であり、また、プロの選手になることが貧困を脱出する数少ない手段となっている状況を目の当たりにする。ドミニカの選手の特徴は、集中したときには強烈な力を発揮する一方、そうでないときは信じられないようなミスをすることである。その背景には、貧困と教育制度の手薄さのために、チームに献身する姿勢を含め選手の学ぶ機会が不足しているドミニカ特有の社会事情がある。ドミニカ取材では、1995年にロッテでプレーしたフリオ・フランコへのインタビューも実現する。「日本で学んだのは野球漬けの練習システムに慣れる忍耐強さと規律」という彼の言葉から、ドミニカの選手に欠けているものがあぶり出されてくる。著者は1980年代前半からドミニカに作られたメジャーリーグ各球団のアカデミーのうちパドレスのアカデミーを視察、その環境のすばらしさを伝える一方、同じくドミニカにある広島カープのアカデミーも視察し、その環境やMLBアカデミーとの相違も分析している。精力的な取材から知られざる野球強豪国の実態が理解できた。
 2014年にはオランダ領キュラソー島を訪問。人口15万、種子島と同じ程度の面積のこの島は、他のカリブ海諸国よりも経済的に恵まれ、オランダにならった高い教育システムがあり、人口の6割から8割が英語を話す。野球においてもシステマチックな育成の仕組みが完成しており、メジャーリーグでプレーし日本の楽天にも在籍したアレックス・ジョーンズによれば、キュラソーで育成されるのは「打撃のミート・パワー・走塁技術・守備力・送球能力・知性」の6ツールを備えた選手なのだという。WBCでのオランダ代表チームの強さに意外性を感じて個人的に驚いた記憶があるが、代表チームの半数以上がキュラソー出身の選手だったということで納得がいった。
 中南米野球取材の三カ国目として、著者は2015年にはキューバを訪れる。一世紀以上の歴史を持つキューバ野球は、1959年のキューバ革命後にプロリーグが禁じられ、アマチュアの野球選手が国営のスポーツ学校「エイデ」で養成される仕組みに変わった。エイデに入学できなくても高いレベルで野球をできる環境がキューバにはある。しかし、大きな自然災害の後、いっこうに改修されない凸凹のグラウンドや粗末な球場設備は、この国の経済的困窮を示し、近年は多額の報酬を手にできるプロ選手のステイタスに憧れてアメリカへ亡命する者も現れるなど、社会主義国としてのキューバの特殊な事情も垣間見える。アグレッシブさが身上のキューバ野球のプレーの質にも、チームの団結力や投手のピッチングレベルが近年下降するなど変化が訪れている。著者が滞在中に取材したキューバリーグでは、日本とも縁の深いスター選手のグリエル兄弟が亡命する騒動が後に起こっている。アメリカとの国交断絶がキューバ野球に厳しい現状をもたらしていることに、政治や経済のスポーツへの避けがたい影響を見て取りつつ、著者はキューバ野球が今後国外にも活路が開かれていくことに希望を託す。
 最後に訪れたのは著者が最も訪問を躊躇した南米大陸の国ベネズエラ。ハイパーインフレと世界最悪の犯罪率で知られるこの国は、しかし、こと野球に限ればほかのどの国よりも優秀なショート(遊撃手)を輩出することで知られる。パワーに頼るところの多いドミニカの選手に比して、ベネズエラの選手はパワーだけでなく俊敏性とグラブさばきの上手さの技術を兼ね備えていることが、現地で野球指導している人物によって語られる。その基盤となっているのは、整備されたベネズエラの義務教育(6歳〜15歳)制度である。反米社会主義路線をとり政治的経済的には国家的危機に直面している国内事情も伝えながら、著者はベネズエラ各地を回り、バリオ(貧民街)取材も敢行してベネズエラ野球の特殊性を探っている。
 4つの取材先が、アメリカべったりからアンチ・アメリカまでそれぞれ異なる事情を抱えていて、しかし、いずれもアメリカ野球、さらには日本野球に深く組み込まれているというその対比が興味深い。現地の風俗や生活、取材の苦労や恐ろしさが率直に語られ、鮮明な写真とともに臨場感を高めている。著者と同行カメラマンの前に進む勢いのようなものに好感を抱いた。欲を言えば、これらカリブ海の島々の歴史的な事情、植民地のサトウキビのプランテーションがもたらした経済的後遺症などにも目が向けられるとさらに彫りが深まったろう。
 つ問題を感じたのは「翻訳」である。たとえば全編を通じてのテーマの一つとも言える「規律」。コーディネーターがスペイン語から英語にする際に“discipline”と言ったのだろうが、これをただ「規律」とするのではなく「真面目に、ちゃんと、一生懸命やる」のような平易な表現を取り入れていれば、もっと自然な感じで読めたと思われる。

■優秀賞 (トロフィー、副賞50万円)

 神は背番号に宿る
神は背番号に宿る
  佐々木 健一(ささき けんいち)(発行:新潮社)

選評:
 プロ野球をテーマとした異色の本である。作者はテレビのドキュメンタリー番組のディレクターを本業とする。NHKの子会社で制作会社のNHKエデュケーショナルに勤務し、さまざまなジャンルのドキュメンタリーを手掛け、いくつもの賞を受賞してきた。
 本書は2014年にNHK-BS1で放送された『背番号クロニクル プロ野球80年秘話』の制作に際して取材した内容に、テレビ番組では割愛せざるを得なかった部分を含めて再構成し、書き下ろしたものである。
 内容は、プロ野球選手の不思議な因縁や人生模様など、生きざまを背番号からひも解いたものである。帯には「背番号という数字にまつわる、選手たちの数奇な人生とは― 球史に埋もれていた物語が、ここに蘇る!」とある。いささか大げさだが、収録されたエピソードは確かに興味深い。「はじめに」によれば、作者は背番号の各数字に因縁の深い往年の名選手たちに取材するたびに、必ず「あなたにとって背番号とは?」という問いを投げかけたという。皆が口をそろえて返してきた答えが「背番号は選手の顔」というものだった。そこで、背番号は「成績や年俸とは異なる独特の価値観を帯び、選手がプレーするその背中で躍るうち、やがてその選手のアイデンティティとなり、その立場や格を表すもの」と考え、さまざまな背番号と選手のエピソードを綴ってゆく。
 構成は、野球のイニングになぞらえて1回から9回までの9章建てである。2回以降は特定の数字、すなわち背番号が各章のテーマという位置づけで、「28」、「11」「20」、「36」「1」、「14」「41」、「4」「14」、「15」、「1」のそれぞれを背負った往年の名選手たちの背番号への執念のようなものが明かされてゆく。
 まず1回だが、ここでは言霊(ことだま)ならぬ数霊(かずだま)について。これは元巨人監督の原辰徳が言っていたそうだ。数字が人の運命を左右するはずはない。しかし多くの野球選手は験を担ぎ、数にこだわるようだ。例えば「19」に強くこだわった故小林繁投手である。江川とのトレードとその後の活躍は有名だが、阪神でも巨人時代と同じ「19」を着けた。小林は、競馬の馬番号にも執着するほどであった。彼が亡くなったのは19×3の54歳。そして「3」は、実は巨人にトレードされることが決まっていた阪神所属時(1日だが)の江川に与えられた背番号であった。この逸話以外にも掛布の「31」、エースピッチャーが好む「18」、リリーフの「22」など、なぜそうなるのかを以降の章のイントロのような位置づけで紹介した。
 2回を一旦置いて、この章は後で言及する。さて、3回に登場するのは阪神のエースで監督も務めた村山実である。背番号は「11」だ。村山は入団契約の日、11月11日で、自身の生まれたのも昭和11年だったから「11」を希望したという経緯があった。実は阪神球団で「11」は縁起の悪い背番号だった。過去「11」を着けた選手はことごとく憂き目に逢っていた。しかし村山はジンクスは自らの力で乗り越えられると考え、あえて「11」を背負い続けた。輝かしい記録を残した一方で怪我が多く満身創痍で引退した村山だったが、「11」は阪神の永久欠番となり、不吉から栄光の数字に変わったのであった。
 4回の登場選手はヤクルトの池山隆寛。「36」という大きい数字の背番号を着けて打ちまくったが、なかなか年俸は上がらない。業を煮やした池山が球団との交渉材料にと敢えて背番号「1」を要求したところ、あっさり了解されてしまったのである。「1」は主力打者の若松が着けていた背番号だった。それから球団も好調の波に乗り、4度のリーグ制覇、3度の日本一に輝いた。もちろん池山は中心バッターとしてチームを牽引。しかし、その後は身体を痛め、次第に打てなくなり2軍に落ちた。池山はけじめとして「1」を球団に返上。その後、その背番号は岩村、青木宣親、そして現在はトリプルスリーの山田とその時代のヤクルトスワローズの中心バッターが着ける番号になった。
 5回は中日の中心バッターとして活躍した矢沢健一。京都の僧侶のアドバイスで、元々の背番号「14」をさかさまの「41」に変えてからブレークしたという逸話。
 6回は永久欠番についての章。特に戦死した沢村栄治が着けていた「14」にまつわること。
 7回はホークスのスタジアムの15番ゲートと中継ぎエースとして活躍しながら若くして癌で逝った藤井将雄投手。
 回は球団再編成で近鉄が消滅したために永久欠番でなくなった300勝投手鈴木啓示が着けていた「1」。そして9回は、ラッキーセブンとカムバック賞に多い「9」。
 ここで改めて2回に戻ることにする。2回は60ページあり、他の章(回)が20数ページ以下なのに比べると、ボリューム的にも本書の核をなす部分であろう。主人公は背番号「28」として多くの野球ファンが記憶する江夏豊。江夏は高校野球で1年上の鈴木啓示と投げ合い、鈴木の強さにショックを受けた経験を持つ。そのため入団時に阪神が提示した「1」を受けず、「28」を選択した。江夏は数々の記録と記憶に残る栄光の投球を積み重ねてきた。例えばシーズン401奪三振。オールスターでの9者連続三振などである。28という数字は完全数、つまり割り切れる数字を足し上げると28になるのである。
 この2回にはもう一人主人公が描かれている。岡﨑満義さん。Number創刊準備号に掲載された「江夏の21球」の企画者として登場したのである。作者は江夏が引退セレモニーを行った多摩の「一本杉球場」に岡崎さんを呼び、江夏と共に当時の秘話をインタビューした。もちろんこの一連の場面はテレビ番組だからこその演出である。実はオンエア後に『こどもと体育』のNo.167に岡崎さん自身が寄稿している。「江夏の21球」はギリシャ悲劇に謳われるような英雄伝であり、それゆえ江夏はその後数々の苦難を背負ったのかもしれない、という解釈でご自身が改めて納得がいったと明かされている。悲劇かどうかはともかく、神がかりの江夏の投球を山際淳司という新人ライターを起用して「スポーツで人間の生き方にどう迫るか」を実現させた企画であった。その後、江夏は球団を転々とし、広岡監督と衝突して西武で引退を決意する。しかし球団はセレモニー何も行おうとしない。それに憤りを覚えた岡崎さんたちが名球会メンバーに協力してもらって実現したのが一本杉球場での引退式だったのである。
 作者は数字が「自分が自分であるための証」であるとともに、その数字が帯びる人格、人生、伝統、責任、運命といった物語性は、ほかならぬ私達が作り出した「幻想」でもあるのだという見解にたどりつく。ある数字と出来事との間に見えざる糸を結んでいるのは、「数霊」ではなく私達自身なのである。その過程において自らが試みたのは、「日本球界の歴史のなかで四散していた数字と出来事との関係を紡ぎ、物語として見つめ直すこと」であったと作者自身あとがきで述懐している。本書を読むと、つくづく「背番号」がもたらす因縁の不思議と、無機質な数字が情感あふれる人間模様を映し出す妙に感じ入る。その鍵となる数字の洗い出しと数字をめぐるエピソードの検証からある種のプロ野球史外伝を紡ぐという著者の意図は、概ね成功しているといえるだろう。

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主催:公益財団法人 ミズノスポーツ振興財団 
選考:ミズノ スポーツライター賞選考委員会

[主旨]
 スポーツが巨大なメディアそのもとなった今日、世界の国々、地域、民族が分け隔てなく、共通のルールで価値を創造し共有できる文化は、スポーツをおいて他に見当たりません。
バンクーバー冬季オリンピック大会、サッカーW杯南アフリカ大会、いずれの舞台でも、肉体のもつ能力の可能性が未来に向かって切り拓かれました。世界の人々の魂を揺さぶる人間的なドラマも現出しました。スポーツはどんな状況にあっても、子どもたち、若者たちが夢をふくらませ、それを叶えられるフィールドとして価値ある存在であることがあらためて確認されたと言えるでしょう。

 スポーツをテーマに「書く」ということは、スポーツの世界で繰り広げられる多種多様な事象を、読む人の心にいきいきと甦らせることのできる高度の娯楽性を基盤に置きつつ、客観的な報道性(記録性)と時流に迎合しない批評性を併せ持った文章によって、人々にスポーツの真価を伝えることです。それはスポーツの文化性をより高めるために必須の営みだと言えます。

 今年度で21回目を数える「ミズノスポーツライター賞」は、「スポーツの世界を文字で描き伝える」スポーツライターの業績を顕彰するわが国唯一の賞として、その価値と使命がいよいよ大きなものとなってきています。本年も21世紀のスポーツ界とスポーツ文化のさらなる発展に寄与することを目的として、スポーツ報道とスポーツ・ノンフィクションに関する優秀な作品を広く公募いたします。

[対象領域]
 【2017年1月1日~12月31日】に発行・出版・発表されたもので、主として新聞・雑誌・単行本等に掲載された個人もしくはグループで書かれたスポーツ報道、スポーツ評論、スポーツノンフィクション、など。ただし、インターネット上のウエブサイトなどで発表されたもの、社内報や広報誌等一般に販売されていないもの、一般の者が入手不可能な機関誌的なもの、翻訳書や専門学術書・誌、研究紀要等に掲載されたいわゆる学術論文はこの対象からは除く。

[表彰内容]
★最優秀作品 1本 (トロフィー / 賞金100万円)
☆優秀作品  2本 (トロフィー / 賞金 50万円)

[選考委員]

委員長河野 通和(株)ほぼ日「ほぼ日の学校長」、『中央公論』『婦人公論』『考える人』元編集長
委 員上治 丈太郎(公財)東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会 参与
 杉山 茂スポーツプロデューサー/元NHKスポーツ報道センター長
 ヨーコ 
ゼッタ-ランド
スポーツキャスター
 高橋 三千綱芥川賞作家
 水野 英人(公財)ミズノスポーツ振興財団副会長

※敬称略・順不動

[ 応募要領 ]
 作品の主旨および筆者名(担当記者)あるいは担当班とそのメンバー名、連絡先を記載の上、新聞・雑誌は作品のコピー3セット(A4サイズ/必要に応じて他サイズも可)、書籍は3冊を同封の上、お送り下さい。応募に際しご不明な点がございましたら選考事務局までお問合せ下さい。

●締め切り(消印有効):2018年1月12日(金)   
●発表 :2018年3月6日(火)   
●表彰式 :2018年4月24日(火)グランドプリンスホテル新高輪(予定)

【お問い合せ先】
「ミズノ スポーツライター賞」選考事務局
〒151-0053 東京都渋谷区代々木2-16-15 代々木フラット401 スポーツデザイン研究所
TEL:03(3377)4858 / FAX:03(3377)5028
お問合せ:こちら


第28回 2017年度・受賞式 (2018年4月24日)
 
授賞式会場
 
(公財)ミズノスポーツ振興財団
副会長
水野 英人

スポーツ庁 次長 今里 譲 氏
 
ライター賞 選考委員長
河野通和
最優秀賞
該当者なし
 

 
優秀賞
中南米野球はなぜ強いのか――ドミニカ、キュラソー、キューバ、ベネズエラ、MLB、そして日本
 
中島大輔 氏
優秀賞
神は背番号に宿る
 

佐々木 健一 氏
 

過去の受賞記録
公益財団法人 ミズノスポーツ振興財団 のミズノスポーツライター賞サイトをご覧ください

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