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vol.362-3(2007年7月27日発行)
葉山 洋 /マーケティング・コンサルタント

北京オリンピックとダルフール

 スーダンという国を知っていますか。

 スーダンがアフリカ大陸の国だとはわかっていても、それ以上は・・・。

 スーダン共和国はエジプトの南に直線で引いた国境線で接しています。面積は250万平方キロ、日本の約6.6倍でアフリカ最大。首都のハルツームは500万の大都市です。

 東は紅海、エチオピアと国境を接しますが、西から南にかけてはリビア、チャド、中央アフリカ、コンゴ、ウガンダ、ケニア、と多彩、複雑です。

 1989年に無血クーデターにより軍事政権を打ち立てたオマル・アル・バシールが、今日も大統領として実権を握っています。アラブ系住民が人口の4割を占め、アラビア語を公用語とするこの国は、独立以前から南北の民族対立が激しく、近年まで20年あまりも内戦が続きました。

 2年前に南北和平協定が結ばれ、国際社会の援助のもと復興・安定への道筋が示されました。一方で、2003年から顕在化した西部ダルフール地区における、アラブ系民兵組織によるアフリカ系住民に対する迫害、レイプ等の暴力行為が激化。いまや40万人以上が殺害、250万人が家を追われ、チャドとの国境付近の難民キャンプに身を寄せているのです。

 このダルフールで進行中の惨劇の収拾に関し、中国のアクションに期待する声が日に日に高まっています。

 ダルフール紛争は、人類史上最悪のジェノサイド(民族浄化行為)ではないかと言われています。国際社会はさまざまなルートを通じてバシール政権に紛争の解決を働きかけ、実際援助の手を差し伸べていますが、事態は一向に好転の兆しを見せていません。政府は民兵組織に対する支援を止めず、収拾には極めて消極的に見えます。とはいえ、何故中国なのでしょうか。

 フランスの大統領選挙で敗れましたが、社会党のロワイヤル候補は中国がスーダンの紛争解決に関して消極的だとして、北京五輪のボイコットを主張していました。

 スーダンは産油国です。その事業に対する最大の投資国は中国なのです。勿論スーダンの全国内産業に対する最大の投資国でもあります。貿易面でも中国はスーダンの輸出総額の何と7割を占める圧倒的な相手国です。

 今年の4月。北京五輪組織員会のアドバイザーを引き受けている映画監督のスティーブン・スピルバーグは胡錦濤国家主席に書簡を送り、中国がスーダン政府に働きかけて紛争を終結に導くよう求めました。

 実は、中国がスーダン向けに輸出してきた主たる産品は航空機を含む銃火器などの「武器」なのです。

 先日、世界各地の新聞に、北京五輪をテーマにしたかのようなインパクトのある広告が掲載されました。しかし、アンブッシュ広告ではありません。広告主はNGO、SaveDarfur.org。マシンガンを構える民兵の写真と陸上競技のスターティング・ピストルのアップの写真がコントラストを示しています。フォト・キャプションのひとつは「DARFUR MASSACRE(ダルフールの殺戮)」、もう一方は「BEIJING GAMES(北京大会)」です。

 スポーツは政治とは一線を画したい。しかし歴史は、スポーツと政治が影響し合ってきたことを、一度ならず示してきました。開会まで1年と迫ってきたオリンピック大会。北京五輪の開催自体が極めて政治的色彩が強い中で、スーダン情勢に対する中国政府の動きに国際社会の注目が集まっています。

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