今年のアメリカの大学フットボールは前代未聞の番狂わせの連続で、どの大学が1月7日の王座決定戦への出場権を得るか、皆目検討がつかないということは、10月の半ばに書いた。ところが、である。番狂わせはその後も続き、レギュラーシーズンの最終週にはとんでもないどんでん返しが待っていたのである。
前回このコラムを書いた8週目の時点では、オハイオ州立大(OSU)、南フロリダ大、ボストンカレッジがトップ3であったが、たまたま無敗であるというだけで残っていたこの3校は予想通り順々に敗北を喫し、シーズン初めに本命の一角と見られており、7週目には1位だったルイジアナ州立大(LSU)が1敗ながらトップに返り咲いた。11月後半の第13週終了時点では、LSU対2位のカンザス大学、もしくは3位のウエストバージニア大学(WVU)との頂上決戦はほぼ間違いないと思われた。しかしながら、第14週の11月25日にLSUがまたも延長戦でアーカンソー大に2敗目を喫し、総合で7位という圏外に去った。この時点で2位だったカンザス大学もミズーリ大学に破れてしまった。
そして最終週である。あらたに1位となった2位のミズーリ大がリーグ優勝決定戦でオクラホマ大に破れ、なんと2位のWVUも絶対優位と見られていた無名のピッツバーグ大に破れ、同じ週に1位と2位が同時に負けるという11年ぶりの珍事を3度も繰り返してしまった。がぜん希望を持ったのは3位以下の大学である。3週間前に1位から陥落したものの、実力校唯一の1敗チーム、OSUは当確とされたが、その相手が決まらない。総合順位はコーチによる投票、識者による投票、コンピュータランキングの3つで決まるのだが、2つの番狂わせのあった土曜の夜から発表のあった日曜の夕方まで、アメリカ中で「にわか評論家」が喧々囂々議論をしたものだ。
それまで3位だったOSUの王座決定戦の相手は、順当なら4位のジョージア大であるが、ライバルのテネシー大に負けたせいで所属する南東リーグ(SEC)の優勝決定戦にも出られず、「リーグで優勝できないチームが全米王者というのはおかしい」という理由で、票を集められなかった。5位のカンザス大は1敗ながら対戦相手が弱小チームばかりでやはり票を伸ばせない。注目されたのは6位のバージニア工科大学である。今年4月に33人が死亡する乱射事件があったばかりで、心情的な本命だったのだが、第2戦でLSUに48対7と惨敗したのが仇となった。
結局2位に選ばれたのは、わずか1週間前に2敗目を喫し、1位から7位に転落して圏外と目されたいたLSUである。数字的には可能性は残されてはいたものの、LSUの関係者ですら期待していなかったタナボタである。もっとも、最強リーグであるSECの優勝決定戦でテネシー大に勝ったこと、2敗のどちらもが延長戦によるものであること、対戦相手が強豪揃いであったことなどから、最終週のコーチや識者による投票の結果を開けてみるとOSUに次ぐ2位で、3位以下を大きく離していた。9年前にBCSというシステムが始まってから、2敗して王座決定戦に出るのは初めて、ということは当然1位のランクから
2度も滑り落ちて決定戦に出るのも初めて、という前代未聞のシーズンにふさわしい出場校である。
という訳で、最終的には去年に続いて連続出場のOSU、シーズン当初から本命の一角とされていたLSUという至極「まっとう」な組み合わせとなったが、それにいたる過程はどんでん返しの連続。ここ数年プレーオフをやるべきだという声が高かったが、これほどスリリングな2、3週間が味わえるのなら現行のBCSも悪くない、と思ったファンも多かったかもしれない。
今シーズン、他校を圧倒する大学がなかったことには、「戦力の均衡化だ」という指摘がある。曰く、フットボール選手への奨学金の数が制限されるようになり、有力選手が多くの大学に散らばったというのだ。しかしながら、フットボール奨学金が現在の85人に制限されたのは1992年のことであるし、南カリフォルニア大(USC)は未だに全米から州代表を集め、スター軍団を作り上げている。つまるところ、今年の混戦の原因はよくわかっていない。
さて、OSUは対戦相手が強くないので1敗ですんだというラッキーボーイと目されているが、去年の決定戦で絶対に優位とされていたのにフロリダ大に41対14という惨敗を喫し、今年は雪辱に燃えている。去年の王者であるフロリダ大と同じ最強リーグ、SEC王者のLSUは2003年以来、4年ぶり3度目の全米王者を狙う。4年前と同じく、地元同然のニューオーリンズ開催という有利さもあり、OSU相手の掛け率ではおそらく10点以上のハンディがつくであろう。
USC対イリノイ大のローズボウルはじめ、3位以下のチームがどのボウルゲームに出場するかもすべて発表された。
驚きの連続の2007年シーズン、どのチームにも残されたのは泣いても笑ってもあと一試合である。
|