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vol.442-1(2009年4月1日発行)

佐藤次郎 /スポーツライター
WBCをめぐる「厚化粧」

 WBC、ワールド・ベースボール・クラシックをめぐるフィーバーはすさまじかった。テレビを中心とするメディアは、連覇を飾った日本代表チームを、至高の偉業を成し遂げたという論調でほめたたえ、「サムライたち」をスーパーヒーローとしてもてはやした。大会が終わった後も、まだその余韻が残っているようだ。

 だが、これにはいささか首をかしげないわけにはいかない。この扱い、この評価は妥当なものだったのだろうか。

 日本代表の戦いがみごとだったのは間違いない。代表選手たちのプレーには、これまでにない力強さがあった。スモールベースボールという決まり文句にはおさまりきらない底力を感じさせていた。米メジャーリーグ勢のパワーにも負けない好投手がそろっていたのが大きかったのだが、今回の戦いぶりは、日本野球全体の進化を強く実感させる内容だったと言っていい。

 ただ、この結果をもって「世界一になった」「ついにメジャーをしのいだ」などと言い切ることができないのは、いまさら言うまでもない。建前やうたい文句はともかく、WBCが現時点で世界一決定戦といえる存在でないのは、誰もがわかっているはずだ。各国のトップ選手による本格的な国際大会ではあっても、参加を辞退する有力選手が多く、試合そのものにも投手の登板制限や投球数制限などがあるのだから、真のチャンピオンシップを争う大会とはいえない。そもそも、大会を創設し、運営を主導しているメジャーリーグとしては、あくまで本来のレギュラーシーズンが第一であって、3月はまだ調整途上の時期なのである。

 問題は、メディアもファンもそれをわかっていながら、いつの間にか「やったぜ、世界一!」になってしまったことだ。テレビをはじめとするメディアが、「世界一」「世界一」とあおり、派手に盛り上げようとしたことに、ファンの側もあっさり乗ってしまったという図式のように見える。

 「そんなことに目くじら立てずに、楽しめばいいんだ」という声も多いに違いない。だが、スポーツというものはあるがままに伝え、あるがままに受け止めて楽しむべきものだろう。実際の姿以上に飾り立てて、「世界一だ」「メジャーを上回った」などとはやし立てるのはおかしい。WBC連覇は確かにみごとな成績だが、長く語り伝えられていく歴史的出来事というまでのものではないと思う。「侍ジャパン」というわざとらしい呼び名にも違和感がある。

 WBCだけのことではない。最近のスポーツでは、テレビなどのメディアが、それぞれの大会、イベントを「商品」として売り込み、盛り上げるために、いかにもの大げさなうたい文句でわざとらしく飾り立てる。ドラマ仕立てというのか、とにかく「厚化粧」をほどこすのだ。そのつくられたドラマにファンの側も乗って、ちょっと首をかしげざるを得ないお祭り騒ぎが生まれるのである。

 お祭り騒ぎのフィーバーも時には悪くはない。ただ、それがスポーツを本当に楽しむ姿勢なのかといえば、どうしても疑問が残る。また、そんなことばかり繰り返していては、スポーツを文化として根付かせていくこともできないだろう。

 といって、WBC連覇の価値が低いわけではない。野球にこれだけの注目を集めた功績ははかりしれない。野球界もメディアもファンも、浮かれてばかりいないで、まずはこれを低迷するプロ野球人気の復活につなげることを考えるべきなのだ。

 WBCを真の世界一決定戦に近づけていく努力も必要だ。連覇を飾った日本の存在感は大きい。積極的にリーダーシップを発揮して、より価値ある大会としていくことができれば、それもまた日本球界が誇るべき業績となる。いずれにしろ、世界一だサムライだと騒ぐより、今回の成果を地道に、かつ効果的に次につなげていくことの方がずっと大事なのではないか。

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