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vol.513-1(2010年12月6日発行)

佐藤次郎 /スポーツライター

違和感の正体とは

 なるほどという感じはする。ひとつの筋は通っている。が、なぜか違和感が残るのだ。何か大事なことが抜け落ちているような感じがしないでもない。スポーツファンの1人として、サッカー・ワールドカップの開催地選定に感じたことである。

 2018年大会はロシア、2022年はカタールに決まった。旧ソ連・東欧圏としても中東としても初開催となる。W杯やオリンピックのような大会はできるだけ多くの場所で開いた方がいいに決まっているのだから、その点では評価できる選択と言っていい。ことに、これまでこうしたビッグイベントに縁のなかった中東での開催は新鮮だ。

 ただ、実際のところ、国際サッカー連盟の理事会がどのような基準をもってこの選択を行ったのかは、いまひとつはっきりしない。

 両国とも事前の評価が高かったわけではない。さまざまな課題はあっても、まだ開催していない地域を選ぶという理念を大事にしたのか。それとも、国家を挙げての招致や豊かな資金力といった面を優先させたのか。初開催の国を選んだといっても、それには新たな市場の開拓という意味が強いのか。あるいは、繰り返し指摘されているように、強力なロビー活動、つまりは広い意味の政治力がこの結果を呼んだのだろうか。つまり、サッカーそのもののため、よりよい大会を開くためにこの判断を下したのだろうとストレートに思えないところに、どうしても違和感が残るのである。

 同じような違和感は、オリンピックの開催地選びでも常にある。オリンピックもW杯もスポーツ大会なのだから、まずはスポーツがその中心になければならない。言うまでもないことだ。となれば、開催地選びも本来は、選手たちや支える人々、そして多くのファンのためを第一にして進められるべきだろう。

 ところが、そこではスポーツの影は薄い。我が物顔に振る舞っているのは、国家やらビジネスやら政治やらである。言い換えれば、国威発揚だの都市再開発だの景気浮揚だの市場開拓だのが最優先されている。どこにもスポーツそのものの姿は出てこない。とっくの昔にスポーツを超えた存在になっているのだといえばそれまでだが、とはいえ、この現状をファンの素朴な目であらためて眺めわたしてみれば、やはり違和感を持たずにはいられないのだ。

 今回決まった二つのW杯開催地も、ともに国家を挙げての招致であり、国の威信をかけて臨んだという観が強い。巨費によって多くの施設やインフラの整備が行われ、大規模で豪華な大会が開かれるに違いない。そこにFIFAも新たなマーケティングの可能性をみているのだろう。が、そうした方向が大会本来の姿をさまざまな形でゆがめていくのは、近年のオリンピックを見ればわかることだ。それに、どこの国にしろ、現在の経済状況のもとで、人々の生活向上や福祉の充実をよそに巨費を投ずるのが理にかなっているかどうかは、考えないでもわかる。

 スポーツとは関係のないところで巨大化、豪華路線を突き進む大会。ビジネスの面ばかりを重視して開催地を選ぶ主催者。そこに誰も疑問を感じなくなりつつある時代。それが、W杯や五輪にいつもつきまとう違和感の正体である。

 ついでに言っておきたいことが、いくつかある。日本は「次世代のW杯」を売り物にしたが、競技の見せ方や運営に先端技術を導入することは、スポーツ大会がどうあるべきかという本質に直結しているだろうか。あえて極端な言い方をすれば、ハイテクはスポーツの添え物に過ぎないのではないか。東京五輪招致にもその傾向があったが、ハイテクばかりを売り物にするのはいささか寂しい。

 日本の完敗を受けて、いつものような声が出ている。「国を挙げて招致しなければダメだ」「ロビー活動の力をつけなければいけない」といったものだ。だが、スポーツの世界に「国を挙げて」の考え方がふさわしいとは思えないし、ロビー活動もスポーツの本筋には何の関係もない。成熟したスポーツ文化を考えるのであれば、むしろそうした傾向に堂々と反論すべきではないか。

 それともうひとつ、FIFAへの疑問が消えない。計画への評価が高く、一時は大本命ともいわれたイングランドがたった2票で1回目に姿を消したのはどういうことか。報じられているように、英メディアがFIFAの不正を追及したのが原因のひとつであるなら、それはずいぶんおかしなことだ。厳しい指摘を受けるだけの事実は確かにあったのである。批判されたから選ばないでは、世界のサッカーを統括する公的な組織としての資格などない。まるでわがままな駄々っ子ではないか。そんな体質を感じさせてしまうところにも、あの違和感が消えない理由がある。

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