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vol.505-2(2010年10月8日発行)

滝口 隆司 /毎日新聞運動部記者

別大マラソンの「2時間50分」

 来年2月6日に行われる別府大分毎日マラソンの開催要項が発表された。60回目を迎える記念大会で、参加資格がこれまでの「2時間50分以内」の男子から「3時間30分以内」の男女に拡大された。女子の参加は30年ぶりになるが、注目したいのはそのタイムだ。

 ランニングに生活の多くを傾けている先輩がいる。フルマラソンはもちろん、100キロマラソンにも毎年出場している人で、目標は「別大に出場する」ことだった。

 別大に出場するには、まさに2時間50分以内の記録を持たなければならない。3時間以内で走る「サブスリー」は既に達成しているのだが、フルマラソンの出場を重ねても、タイムがなかなか縮められない。別大出場にあと7分、あと5分・・・。立ちはだかる大きな壁だったのだ。

 別の知り合いランナーからも「別大を目指す」という話を聞かされた。その人も相当量のトレーニングを積んでいたが、なかなか参加資格を得られない。2時間50分というタイムは、一般ランナーとトップランナーを仕切る、絶妙のタイム設定だったといえるのかもしれない。

 別大出場を目指してきた人たちは、今回の参加資格変更に少し複雑な思いを抱くかも知れない。自分を支えてきた目標が急に目の前から消えたのだから。だが、これは時代の流れと納得するほかないだろう。フルマラソンは、特殊な訓練を積んだトップランナーの世界から、だれもが走れる一般ランナーの世界へと価値観の軽重を変えている。別大の出場者は前回605人だったが、今回は2000人が見込まれるという。

 来年2月末の東京マラソンの参加受け付けは既に締め切られ、定員の9・6倍となる33万5000人が申し込んだ。参加資格は「6時間40分以内」に完走できる男女だが、もはや希望するランナーを抱えきれるだけの大会ではなくなっている。この状況に呼応するように、各地の県庁所在地がフルマラソン開催に相次いで名乗りを上げ始めた。

 特に関西ではその熱が盛り上がっている。今年12月にはまず第1回奈良マラソンが開かれる。平城遷都1300年を記念した大会だ。来年10月には東京マラソンに並ぶ30000人規模の大阪マラソンが産声を上げる。大阪城公園をスタートし、御堂筋や道頓堀、通天閣などを通って南港のインテックス大阪がフィニッシュ地点。その1カ月後には神戸マラソンがある。こちらは神戸市役所から海岸沿いに出て明石海峡大橋を折り返し、ポートアイランドへと続くコース。約20000人の参加が予定されている。

 さらに12年3月には京都マラソン。平安神宮や二条城など都大路の観光名所を巡るコースになる予定で、こちらも15000人ほどが参加するという。関西以外では名古屋で12年3月に約30000人が走る「マラソンフェスティバル(仮称)」が開催される。各種距離のレースが用意されているが、フルマラソンは女子だけという珍しい大会だ。

 スポーツへの欲求の大いなる高まりを感じる。それはスポーツを「見る」ではなく、「する」という行為においてだ。トップスポーツと一般の人たちのスポーツを隔ててきた垣根とは何だったのか。別大マラソンの参加資格変更を見ながらそんな思いに駆られた。

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