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vol.532-1(2011年6月24発行)
松原 明 /東京中日スポーツ報道部
「愛媛の苦悩」

 女子サッカー、なでしこ日本代表の壮行試合の取材に愛媛入りして驚いたのは、試合会場「ニンジニア・スタジアム」の水はけの悪さである。大雨でみるみるうちにピッチに水があふれ、水しぶきが上がるほど。Jリーグ使用の規格に合った競技場なら暗渠排水工事は完備しているはずなのだが、選手はスパイクがもぐるほどのピッチに悪戦苦闘。およそサッカーの代表戦にはふさわしくないロング・ボールの蹴り合いになるしかなかった。

 ここをホームにしているJ2愛媛FCは15年ぶりの代表戦開催に、全国TV中継された試合で一大欠点が露呈してしまった佐伯真道GMは「本当に申し訳ない」を連発。この日東京からなでしこの激励観戦に来た日本サッカー協会・小倉純二会長は「一日も早く改善して欲しい」と、愛媛県、市関係者へクレームをだした。

 ここは松山市郊外の丘陵を開発、動物園も併設。総合スポーツセンターを目指している「総合運動公園」のメイン・スタジアムだが、芝生席が大半で屋根も全くない。雨に濡れて観戦するファンには本当に気の毒だった。電光スコアボードもなく、ゴール裏の芝生席のスタンドに簡易メンバー、得点を表示しているだけ。

 佐伯GMは「愛媛県に改善の要望をしていますが、国体開催を控え、いつ改修できるか見通しが立ちません。このままでは昇格に待ったがかかります。まさに苦悩の毎日です」と、打ち明けた。元々ここは池を埋め立てた土地、と言われ、初期の段階で基礎工事が十分されていなかったのも判明した。これでは雨天開催でトラブルが起きるのも当然である。

 その上、私は路線バスで会場入りしたが、途中の国道33号線が常時交通渋滞になり、約50分(500円)もかかる遠さ。これではファンもやってこない。この道路事情、アクセスの悪さをどう克服するのか妙案もない。

 愛媛は2006年、J2昇格以来着実にチーム力は向上。今や、初めて3位に上がり、四国初、待望のJ1入りの希望もみえてきた。その矢先、この内情が露呈したのは皮肉である。全面改修には相当の時間がかかる。愛媛県も改修、新設には財政の余裕がない。

 Jリーグは昨秋、欧州の主要サッカー場を視察した傍士銑太(日本経済研究所専務理事、Jリーグ理事)氏がリーダーとなり「いかにいいサッカー場を建設することが町の活性化へつながるのか」を、全国行脚してアピールしているが、欧州の夢舞台が、日本に実現する日は、まだまだ遥るか遠い彼方のようだ。

 「松山のニンジニアは視察しましたが、あのアクセスではファンは呼べません。便利な場所に設ける方法はあると思います」と、傍士氏は分析しているが、行政の建設したスタジアムを借りているJリーグの各クラブは、大小さまざまの悩みを抱えている。

 日本はまだJリーグが誕生して20年も経っていない。100年余の歴史を誇り試行錯誤のすえ、今の社交場でもあり、研修センターにもなり、ホテル、レストランも備え、市民のニーズに応えるサッカー場を作り挙げた欧州に追いつくのはいつになるだろうか。

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