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vol.582-1(2013年7月19日発行)

滝口 隆司 /毎日新聞運動部記者

即座に反論した米国オリンピック委員会

 米国から入ってきたニュースには、首をかしげざるを得なかった。旧ソ連のアフガン侵攻を非難して西側諸国が参加しなかったモスクワ五輪は1980年の出来事だが、またも米国の政治家が、ロシアで開催される来年のソチ冬季五輪をボイコットしようと騒ぎ立てているという。

 共和党のグラム上院議員がNBCテレビのインタビューで、米政府の情報収集活動を暴露した中央情報局(CIA)の元職員、エドワード・スノーデン容疑者のロシア亡命問題に触れ、「ロシアが亡命を認めればソチ五輪のボイコットも検討すべきだ」と発言した。スノーデン容疑者とソチ五輪の米国選手団派遣には何の関係もないのだが、米国オリンピック委員会(USOC)はこの発言を放置せず、即座にパトリック・サンダスキー報道官名で反論の声明を発表した。

 「1980年モスクワ五輪の米国のボイコットから学んだことがあるとするなら、五輪のボイコットには何の効果もないということだ。我々のボイコットは紛争の解決には貢献せず、自分の人生を五輪に出場するために捧げてきた何百人ものアスリートから一生一度の機会を奪うことになった。〜中略〜 我々は、五輪とパラリンピックをボイコットすることが我々の国家の最善の利益になるという考え方に強く反対する」

 多くの西側諸国を巻き込んで世界のスポーツ界を真っ二つに割ったモスクワ五輪のボイコットを、USOCは「何のためにもならなかった」と総括し、政治家に強い態度を示した。1980年の不参加を後悔し、米国スポーツ界が今後どうあるべきかを考え続けてきたに違いない。

 翻って今の日本オリンピック委員会(JOC)に、USOCのような気概はあるだろうか。この10年ほどの間に日本のスポーツ界は政治との結び付きを以前にも増して強めてきた。国の補助金と文部科学省の外郭団体である日本スポーツ振興センターからの助成金に頼り、それに伴う加盟競技団体の不祥事が相次いでいる。補助金漬けになった日本のスポーツ界が、政治家を相手にして独自の意見を述べられるとは思えない。

 今のところ、グラム議員のボイコット発言に米議会内では同調の動きは少ないようで、大きな騒ぎにはならずに済んでいる。しかし、日本を取り巻く環境を見れば、常に隣国との摩擦が起きており、国家主義的な考えを持った政治家が目立った動きをしている点は否めない。

 国家間の衝突や紛争が起き、スポーツにも影響が及んだ時、JOCは毅然とした態度を示せるだろうか。政治にがんじがらめになって、言いたいことも言えないのでは、モスクワ五輪に出られなかったアスリートたちの無念が浮かばれない。新しいJOCの理事会には、柔道の山下泰裕氏やレスリングの高田裕司氏ら当時の選手たちがいる。あの時の悔し涙を思い出しながら、JOCの哲学を再建してほしいものだ。

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